従業員の働く環境を整える(労務管理機能) 読みもの(人事・労務向け記事)

【2021年1月施行】 育児・介護休業法改正のあらましを解説、「時間単位」で取得できるようになるってどういうこと?

投稿日:2020年12月16日

企業で働く人たちの仕事と育児・介護の両立を支援するために設けられた「育児・介護休業法」。正式名称は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」で、前身である育児休業法は1991年に定められました。少しずつ改正され、現在に至る本法律ですが、さらに一部改正が加わることになりました。ここでは、2021年1月1日より施行される法改正の中身と、企業の取るべき対応についてご紹介します。

2021年1月施行、法改正のポイント

「子の看護休暇」「介護休暇」とは?

詳しく法改正の中身を見るまえに、「子の看護休暇」と「介護休暇」がどのような制度なのか、簡単に触れておきます。

「子の看護休暇」は、小学校入学前の子どもがケガや病気で保育園などに預かってもらえない場合、あるいは予防接種や健康診断を受けさせるために親が同伴する場合などに、有給休暇とは別で取得できる休みのこと。未就学児のいる親が主な対象となる制度です。

一方「介護休暇」は、要介護者を持つ社員が、要介護者の急な体調不良や通院の付き添い、ケアマネージャーとの面談などを理由に、突発的に休む必要がある場合、有給休暇とは別で取得できる休みのことです。要介護者とは、ケガ・病気・障がいにより2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする家族などのことをいいます。「介護休業」と混同しがちですが別のものです。

いずれも、「有給」とするか「無給」とするかは会社の任意で決めることができます。また、取得できる休暇の上限は、1年間に5日(未就学児・要介護者が2人以上の場合は10日)です。重要なポイントは、労働者から「子の看護休暇」や「介護休暇」を取得したいとの申出があった場合、原則として会社は拒むことができないということ。これは、法的に定められています。

なお、「原則として」としましたが、「入社6か月未満の者」「1週間の所定労働日数が2日以下の者」に関しては、労使協定を締結することで、子の看護休暇・介護休暇の対象外とすることもできます。

法改正で休暇の「時間単位」取得が義務化

それでは、法改正の中身について確認しましょう。

前提として、労働者側から見た場合、休みの取得単位は短ければ短いほど、使い勝手がよいものです。その効果は、昨今のテレワークにおいて、より強く認識できるのではないでしょうか。たとえば、子どもの通院に費やす数時間だけ仕事を休むことにして、それ以外は仕事をするといった働き方ができると理想的です。

この「休暇の取得単位が短ければ短いほど働きやすい」という前提のもと、2017年1月に「子の看護休暇」と「介護休暇」の取得単位は、「1日単位」から「半日単位」へと変更されました。そして今回、さらに一歩踏み込み「1時間単位」とすることが義務化されました。これまでは、労働者が希望した場合、「午前休・午後休といった半日単位での休暇取得も認めるように」という内容でしたが、「1時間単位での取得を認めるように」という内容に変わったのです。

具体的には以下のようなイメージです。

ここでひとつ注意したいのが、勤務途中の数時間だけ仕事を抜けて私用を済まし、再度会社に戻ってくる「中抜け」の扱いです。1時間単位の取得が可能になると、たとえば「午後の3時間だけ抜けて、子どもを病院に連れていきたい」といったケースも増えてくることが想定されます。今回の法改正において、この「中抜け」の扱いについて、認めるか否かは会社の判断に委ねられることになりました。ただし、厚生労働省からは、できるだけ「中抜け」も認めるよう促されています。

また、時間単位での休暇の取得が困難な職種もあります。たとえば、遠距離ドライバーや一度搭乗すると降りることのできないキャビンアテンダントなどを思い浮かべると分かりやすいでしょう。そういった職種の場合は、労使協定締結のもと、時間単位取得の対象外にすることができます。労使協定の結び方については、後ほどご紹介します。

以上が、今回の主な法改正ですが、付随してもう1点あります。これまで、「1日の所定労働時間が4時間以下」の場合、「半日単位」での休暇は義務化されていませんでした。しかし今回の法改正では、所定労働時間の長さによる区別はなくなり、すべての労働者において同じルールが適用されることになりました。

法改正に向けて、企業が準備すべきこと

2021年1月1日の施行に向けて企業が準備しておくべきことは、就業規則等の見直しと時間単位での勤怠管理・休暇管理方法の検討です。加えて、もし時間単位での休暇取得が困難な職種がある場合は、労使協定を締結する準備を進めましょう。

就業規則や関連規程の見直し

就業規則や関連規程の中に、「子の看護休暇」や「介護休暇」に関して記載している箇所があるはずです。そこを書き換える、あるいは書き足します。就業規則の参考例は以下のとおりで、2つ目の項目にあたる部分を修正します。

すでに「時間単位」で運用している場合は、とくに何も変更することはありませんが、「半日単位」としている場合は「時間単位」に変更しましょう。

なお、上記は「中抜け」を認めない場合の例ですが、もし「中抜け」を認めるなら、「始業時刻から連続又は終業時刻まで連続して」の箇所を削除して、「時間単位で取得することができる。」とすればOKです。

就業規則を変更した場合は、労働者の過半数代表(あるいは労働組合)の意見を聞き、意見書を書いてもらい、この意見書とともに変更した就業規則を労働基準監督署に提出します。

勤怠管理・休暇管理の方法を検討

「子の看護休暇」「介護休暇」は、先述のとおり1年間に5日(未就学児・要介護者が2人以上の場合は10日)が法律で定められた取得上限です。会社独自のルールで、この数を上回る日数を設定することは可能ですが、下回ることはできません。

勤怠管理・休暇管理においては、この上限日数を念頭におきながら、時間単位で管理しなければなりません。考え方としては、1日の所定労働時間×5日分(2人以上なら10日分)までが、「子の看護休暇」「介護休暇」として消化できる時間と考えます。

たとえば、所定労働時間が6時間の人なら、5日分で年間30時間。2人以上なら、10日分で年間60時間が、育児・介護用として別枠で認められた休暇時間です。これを上限として優先して消化し、それを超える休暇に関しては、有給休暇から消化するといった運用が考えられます。

したがって、「休暇取得時間(累計)」と、「それぞれの休暇に対して有給休暇を使うのか、子の看護休暇・介護休暇を使うのか」を管理する必要があります。

休暇取得時間管理の方法は、なんらかの勤怠管理システムを導入しているなら、法改正に合わせて仕様が変更されていると思うので、その仕様に従えばOK。独自のExcelや紙などで管理している場合は、時間単位でカウントできるよう準備すること。加えて、休暇の取得理由を残せるようにフォーマットを変えることなどが、事前に準備しておくべきことです。

また、タイムカードを使っている場合については、時間は取得できるものの、休暇理由は把握できないと思うので、別の方法で理由を取得できるようにしておきましょう。

細かな計算方法については、厚生労働省のQ&Aでも確認できるので、参考にしてみてください。

(時間単位の取得が難しい場合のみ) 労使協定の締結

自社内に、時間単位での休暇の取得がどうしても困難な職種がある場合は、労使協定を締結する準備を進めます。労使協定の中身は以下のようなイメージです。この中に、「(子の看護休暇、介護休暇の時間単位取得の申出を拒むことができる従業員)」というような項目を設けて、時間単位での取得が難しい職種や業務などを列挙します。

ちなみに、時間単位での休暇の取得が困難な職種として、厚生労働省が例示しているのは、次のような職種・業務です。

  • 国際路線や長距離路線に就航する航空機において従事する客室乗務員、操縦士など
  • 労働時間の大半を移動しながら行う運輸業務
  • 長時間の移動を要する遠隔地で行う業務
  • 流れ作業方式による業務
  • 交替制勤務による業務 ほか

さいごに

育児・介護休業法改正のあらましを解説

以上が、2021年1月1日より施行される育児・介護休業法の法改正についてです。「時間単位」か「半日単位」か、あるいは「1日単位」か――。「わざわざ変える必要あるの?」と思われるかもしれませんが、育児・介護中の社員から見ると、実はありがたいことだったりもします。柔軟な働き方のできる会社は、採用シーンにおいても選ばれる傾向にあります。今回の法改正では、「中抜け」は必ずしも認めなくてもよいという内容になりましたが、当事者からすると「中抜け」を認めてもらえたほうが働きやすいでしょう。そういった当事者の声によく耳を傾け、どうすれば働きやすい職場になるのかを考えて、制度設計していくことが望ましいように思います。

ライター:林 和歌子
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。

-従業員の働く環境を整える(労務管理機能), 読みもの(人事・労務向け記事)
-

関連記事

自社の労務健全度を社外にアピールできる!? 社労士が診断する「社労士診断認証制度」の具体的な中身を解説

全国社会保険労務士会連合会が、2020年4月に開始した「社労士診断認証制度」。労務管理のプロである社労士が、企業の労務管理の健全度を確認・診断するものです。採用シーンなどで、自社の取り組みをアピールで …

36協定の新様式

【記入例有り】36協定の新様式、書き方完全マニュアル(社労士が解説)

新36協定のおさらい 2018年6月に成立した「働き方改革関連法」によって時間外労働の上限規制が変わります。それに伴い、36協定のフォーマットも新様式に変わりました。 この記事では、2019年4月から …

【令和6年1月新設】両立支援助成金の育休中等業務代替支援コースとは? 変更点や申請の注意点

2024年1月から、両立支援等助成金の中に、育児休業を取る従業員の業務を代替するための体制整備を行った企業を支援する『育休中等業務代替支援コース』が新設されました。 この新設により、両立支援等助成金は …

急なトラブル発生!有給取得中に出勤してもらったら賃金や取得した有給はどうなる?

【Q&A】急なトラブル発生!有給取得中に出勤してもらったら賃金や取得した「有給」はどうなる?

突発的な事故が発生して、有給休暇を取得中の従業員に出勤してもらった場合、賃金はどういった取り扱いになるでしょうか?今回は、有給休暇に出勤してもらった場合の賃金・有給の取り扱いについて解説していきます。 …

【社労士が解説】2021年4月施行「改正高年齢者雇用安定法(70歳就業法)」の具体的な中身とは?企業はどう取り組むべき?

2021年4月1日より「改正高年齢者雇用安定法」が施行されました。「70歳就業法」とも呼ばれるこの法改正、どういった中身なのでしょうか。本記事では、法改正の中身と企業の取り組むべきアクションについて解 …