建設業では、足場を点検せず手すりが未設置の状態で作業を進めた結果、死亡災害が発生しているケースもみられることから、喫緊の課題として認識されています。
そのため、厚労省ではマニュアル見直しを提案し、木造家屋建築工事における最新の墜落・転落防止対策や、増加する脚立・はしごからの墜落防止対策が講じられることとなりました。
本記事では、建設業の墜落転落災害防止対策の強化について詳しく解説します。
建設業における労働災害の発生状況について
建設業における労働災害は大きく減少している傾向にありますが、昨今においても約300人が死亡し、休業4日以上の死傷者数は約15,000人となっています。
この内数として、近年における墜落・転落災害は死亡者数の4割程度、休業4日以上の死傷者数の3割以上を占めています。
建設業の墜落・転落災害の防止対策については、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号。以下「安衛則」と称す。)の累次の改正により、足場等からの墜落防止措置を漸次強化するとともに(手すり・中さん・幅木等の設置、足場の点検、足場の組立て等の作業時における墜落防止措置等)、これら法定事項に併せて実施することが望ましい「より安全な措置」等(手すり先行工法、知識・経験を有する者による点検等)の普及促進や、フルハーネス型墜落制止用器具の着用義務化などその充実を図ってきました。
このような取組もあって、墜落・転落による死亡災害は長期的に減少傾向にありますが、建設工事の現場においては今なお墜落・転落による死亡災害が最も多く発生しており、その防止について更なる実効性のある対策を講ずることが急務となっているのです。
建設業における墜落・転落防止対策の充実強化に関する実務者会合の開催について
建設業における墜落・転落に伴う死傷事故の現象を目的として、厚生労働省では専門家や建設現場の安全に精通した者からなる「建設業における墜落・転落防止対策の充実強化に関する実務者会合」を開催することを決定しました。
近年における墜落・転落災害の発生状況や足場に係る墜落防止措置に関する実施状況等を分析・評価した上で、墜落・転落災害の防止対策を一層充実強化していくために、労働安全衛生法令の改正も視野に必要な方策について検討することとしたのです。
課題の整理について
先行足場の設置がない工事や小規模な工事では、ノウハウ不足・工費の問題などにより親綱支柱・親綱の設置や墜落制止用器具の使用などの法令上の墜落・転落防止措置が不十分であることが想定されます。
これら法令上の墜落・転落防止措置を行うに当たっての留意事項を分かりやすくまとめたマニュアルの作成・周知が有効であるとされました。
また、近年増加傾向のはしご・脚立からの墜落・転落災害対策も盛り込む必要があるとされています。
講ずべき対策について
課題に対応するため、本会合においては主に「屋根・屋上等の端・開口部からの墜落・転落災害の防止対策について」、「足場の通常作業中の墜落・転落災害の防止対策について」、「足場の組立・解体中の墜落・転落防止対策について」に関して検討されました。
ここからは、本会合にて検討を行った結果において対策を実施すべきと結論付けられた内容を説明します。
屋根・屋上等の端・開口部等からの墜落・転落災害の防止対策について
屋根・屋上等の端・開口部等からの墜落・転落災害の防止対策については、次のとおりです。
- 最新の木造家屋建築工事における墜落等防止対策
- はしご・脚立(内装工事を含む)からの墜落防止対策
- 2m未満の低所からの墜落転落防止対策
足場での通常作業中の墜落・転落防止対策
足場での通常作業中の墜落・転落防止対策については、次のとおりです。
- 足場点検の確実な実施
・あらかじめ点検実施者を指名(作業開始前及び組立て等後点検)
・点検実施者の氏名の記録及び保存(組立て等後点検)
・組立て等後点検実施者は足場の組立て等作業主任者で能力向上教育を受講した者等を推奨、点検実施者の能力と労働災害や法令違反との関係について調査・検討 - 一側足場の使用範囲の明確化
・本足場の設置に十分なスペースがある場合には、本足場を使用することを原則
足場の組立・解体中の墜落・転落防止対策について
足場の組立・解体中の墜落・転落防止対策については、次のとおりです。
- 作業手順の遵守徹底
足場の組立・解体作業時における正しい作業手順の遵守の徹底 - 手すり先行工法等の普及促進
「手すり先行工法等に関するガイドライン」の内容の充実(足場部材の最新の安全基準の反映等)、周知・指導とフォロー
足場の壁つなぎの間隔
足場の壁つなぎの間隔については、次のとおりです。
建設事業者への影響について
建設業における墜落・転落防止対策の充実強化に関する実務者会合により、最新の木造家屋建築工事およびはしご・脚立(内装工事を含む)からの墜落防止対策・2m未満の低所からの墜落転落防止対策を具体的に盛り込んだマニュアルの作成と普及がされることとなりました。
建設事業者は今まで以上に安全対策に配慮しなければならなくなるでしょう。
また、法令改正として、あらかじめ点検実施者を指名・点検実施者の氏名の記録および保存が盛り込まれることとなりましたので、事故などが発生した際は会社だけでなく点検実施者にも責任が及ぶことを留意しなければなりません。
具体的に法改正およびマニュアルへの明記がなされることによって、今後事故等が発生した際に建設事業者へ求められる責任は非常に重いものになることを改めて認識しなければならないのです。
https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/001005873.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/001005872.pdf
まとめ
建設業の墜落転落災害防止対策の強化について詳しく解説しました。
本会合において、あらかじめ点検実施者を指名・点検実施者の氏名の記録および保存が盛り込まれることなどが法令改正されることとなりました。
法令改正に伴い、建設事業者には大きく影響を及ぼすようになり点検実施者もその責務を理解しなければならないと言えます。
また、マニュアルの改正により2m未満の低所からの墜落転落防止対策を講ずべき内容が明確化されることで、建設事業者は今まで以上に確実な安全対策を講じなければならなくなったと言えるでしょう。
本記事が、建設業の墜落転落災害防止対策の強化について検討されている建設事業者の方などの一助となったのであれば幸いです。