今月のおすすめ記事 有給休暇義務化 統計分析 読みもの(人事・労務向け記事)

【数字から読み解く】有給休暇年5日の取得義務化から3年以上が経過–「有休取得率」はどう変化したのか?取得率の高い属性は?

投稿日:2023年1月23日

2019年4月に施行された「働き方改革関連法」。複数の施策が同時にスタートしましたが、なかでも大きな注目を集めたのが、有給休暇年5日の取得義務化でした。施行から3年以上を経て、有休の取得状況はどう変化したのか。本記事では、リクルートワークス研究所による「全国就業実態パネル調査(以下「パネル調査」)」をもとに、働き方改革前後の有休取得率の変化や、有休取得率の高い属性・低い属性を追います。

有休取得率は上昇傾向――2021年は、100%取得が「22.3%」

まず、働き方改革が開始した2019年4月前後で、企業で働く人たちの有休取得状況が、どのように変化したのかを見ます。図①は、パネル調査より「会社・団体等に雇われていた」人のみに絞って、有休取得状況の変化をまとめたものです。「すべて取得できた(取得率100%)」は、2018年において「19.2%」と20%を切っている状況でしたが、2019年に20%を突破。2020年以降は22%まで上昇し、現在、横這いを維持しています。

図①

図②は、図①を視覚的に見やすいようにグラフ化したものです。

図②

「取得率50%(おおよそ半分は取得できた)」のラインに注目すると、2018年においては約50%でしたが、2022年には60%付近まで上昇。2018年から2021年の約3年間で、10%程度も伸長したことが分かります。

このことから、有給休暇年5日の取得義務化がはじまって以降、着実に有休取得率が向上したことが分かります。「努力義務」ではなく「義務」化という強制力の強い施策が、社会に緩やかながらも変化を起こしていると言えるでしょう。

有休取得率×性別――男女を比較すると、取得率100%は女性のほうが多め

有休取得率について、もう少し深く掘り下げてみたいと思います。同じくリクルートワークス研究所のパネル調査(2021年の調査結果)より、有休取得率と性別の関係性を見てみましょう。図③は、「会社・団体等に雇われていた」人のみに絞ったうえで、男女別の有休取得率を抽出しました。

このデータを見ると、男性は「すべて取得できた(100%)」と「おおむね取得できた(75%程度)」の比率が高く、両者を合計すると4割以上になります。女性も同様に「すべて取得できた(100%)」がもっとも高い割合を示し、次いで「おおむね取得できた(75%程度)」「有給休暇はない(付与されていない)」と続きます。

図③

図④は、図③をグラフにしたもの。図④を見ると、黄色い部分(「有給休暇はない(付与されていない)」)の男女の開きが大きいことが分かります。男女間で、およそ8%の開きが存在しています。この点から、同じ被雇用者であっても、女性の多くが、有休の付与条件を満たさない短時間労働、あるいは短期間労働に就いていることが推測できます。

図④

有休取得率×雇用形態――雇用形態で比較すると「派遣社員」「契約社員」の取得率が高い

有休取得率と雇用形態の関係も見てみましょう。同じくパネル調査(2021年の調査結果)より、雇用形態別で有休取得率を抽出したものが図⑤、雇用形態「その他」を除いて、グラフ化したものが図⑥です。

図⑤

図⑥

上記の図で注目したい点は、「すべて取得できた(取得率100%)」の比率がもっとも高い雇用形態が「派遣社員」(32.80%)となっており、次いで「契約社員」(28%)が高い比率を示していること。「正社員」の20%と比較して、「派遣社員」は約12%も高いことが分かります。背景には、正社員は勤続年数が長い人が多いため、有休付与日数が多く、同じ日数を取得しても、比率が低く出ることも挙げられますが、同時に責任範囲の大きな「正社員」のほうが、他の雇用形態よりも休みづらい現状もあるのかもしれません。

もう1点、「有休取得率50%(おおよそ半分は取得できた)」のラインを見てみましょう。「正社員」「嘱託」「派遣社員」は6割前後ですが、契約社員は7割と約10%も高いことが分かります。このことから、雇用形態別に見ると「契約社員」が積極的に有休を取得している状況がうかがえます。

有休取得率×従業員規模――従業員規模が大きいほど、有休取得率は高い

続いて、有休取得率と従業員規模についても追ってみたいと思います。パネル調査(2021年の調査結果)を基に、従業員規模別で有休取得率を抽出したものが図⑦です。

図⑦

見やすくグラフ化すると、図⑧のようになります。

図⑧

ここから分かることは、従業員規模が大きいほど、有休取得率も高くなるということ。従業員数:1000人以上の企業だと、100%取得している人が27%強なのに対して、9人以下の企業だと15%程度にとどまり、約12%の差が生じています。従業員規模が大きくなるにつれ、取得率が高まっているため、従業員規模と取得率の関連性は高いことが分かります。

背景には、規模の大きな企業のほうが、同様の業務を担当する人数が多く、代わってもらいやすいため、有休も取りやすいという事情があるのかもしれません。一方、従業員数9人以下の企業は、有給休暇なしの比率が4割以上にものぼっています。まだ、伸びしろが大きいと言えます。

有休取得率×満足度――取得率が高いほど、休暇に対する満足度は上昇

有休取得率と従業員満足度の関連を見てみたいと思います。リクルートワークス研究所のパネル調査からは明らかにできないため、厚生労働省 労働基準局が公表している「年次有給休暇取得率と休暇に関する満足度」の調査データをお借りして、図⑨を作成しました。

図⑨

【参考】『年次有給休暇取得率と休暇に関する満足度』(厚生労働省)

この図から明確に分かるのは、有休取得率が高ければ高いほど、休暇に対する満足度も高まること。当然といえば当然ですが、ここで注目したいポイントが「どのラインで満足・不満足が逆転するのか」です。

「取得率:15%~30%未満」では、満足(44.4%)であるのに対して、不満(55.6%)なので、やや不満気味だと読み取れます。しかし、その上の「取得率:30%~50%未満」を見ると、満足(60.5%)であるのに対して、不満(39.5%)となっており逆転します。ですから、取得率30%~50%付近が、満足と不満の境界線だといえるのではないでしょうか。ただし、人の要求度は高まり続けることを考えれば、満足・不満の境界線は今後、もう少し上がっていくかもしれません。

さいごに

以上、有給休暇年5日の取得義務化から3年以上が経過した現在において、「有休の取得状況はどう変化しているのか」「有休取得率の高い属性・低い属性は何か」などを、具体的な数字をもとに紹介しました。順調に取得率は高まっているようですが、一方で思うように進んでいない属性もあるようです。「有休の取りやすさ」は、従業員の休暇に対する満足度の向上に寄与します。自社内に改善の余地があるようであれば、手をつけてみるのもよいかもしれません。

ライター:林 和歌子
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。

-今月のおすすめ記事, 有給休暇義務化, 統計分析, 読みもの(人事・労務向け記事)
-

関連記事

36協定「特別条項の上限時間」はどのくらい?複雑なルールを詳しく解説!

経営者や人事担当者でなくても、36協定(さぶろく)という言葉を耳にしたことのある人も多いのではないでしょうか。しかし、なんとなく意味を把握していても、2019年4月(中小企業は2020年4月)に改正さ …

【Q&A】退職する社員が引継ぎをせずに退職日まで「有給消化」する希望は応じるべき?

退職が決まっている従業員が後任者に引継ぎをせず、「退職日までに有給消化する」と言ってきた場合は、どう対応すれば良いでしょうか? 経営者が有給休暇を買い取れば、従業員に退職日まで働いてもらうことができる …

パワハラ上司のイメージ画像

【社労士が解説】パワハラ防止法施行までに、企業が対応すべきこととは?予防策と解決策のサンプルをご紹介!

2019年5月に、「パワハラ防止法(労働施策総合推進法)」が成立しました。背景にあるのは、「職場でのいじめ・嫌がらせ」に関する相談件数が年々増加し、下がる兆しが見えないことです。この現状に対して、法律 …

65歳超雇用推進助成金の65歳超継続雇用促進コースを解説!

高齢化社会では若年労働者は減少します。自社の従業員が高齢に達して新規採用を行う場合でも新卒のような若年層は競争が激しく、困難になっていきます。これまでのような定年制度を維持していては人手不足になり、安 …

東京都の中小企業が受けられる「働くパパママ育休取得応援奨励金」とは?

少子化対策として、出生率を高めることは非常に重要な社会的課題に位置付けられています。国や自治体は子育てしやすい社会づくりを目指してさまざまな施策を行い、企業には従業員が育児休業を取得しやすい環境の整備 …