令和7年6月に労働施策総合推進法をはじめとする関連法が改正され、2026年(令和8年)10月1日からカスタマーハラスメント(カスハラ)対策と、就職活動中の学生等に対するセクシュアルハラスメント対策(就活セクハラ)が企業の雇用管理上の義務としてスタートします。
この改正は、単なるハラスメント対策ルールの追加にとどまらず、「誰もが安全に働き続けられる労働環境の実現」という社会の価値観の変化を反映したものです。
1. カスタマーハラスメント(カスハラ)とは何か?
◆定義と対象行為
カスハラは次の3つの要件をすべて満たす場合に該当します:
- 顧客・取引先・施設利用者等の言動であること
- 社会通念上許容される範囲を超えていること
- 労働者の就業環境を害していること
これまで「悪質なクレーム」「理不尽なお客様対応」とされてきた行為が、労働環境に与える影響の大きさに着目して法的な枠組みで整理されます。たとえば、暴言や脅迫、SNSでの個人攻撃、執拗な要求などが該当し得ます。
◆なぜ今義務化されたか
従業員からの相談件数の増加や、企業の離職・生産性低下といった実態を踏まえ、「顧客=神様」という古い通念から、従業員の人権・尊厳を守る社会的な価値観の変化が進んでいるからです。
2. 企業に求められる義務と対応策(カスハラ編)
カスハラ対策として、企業(事業主)には以下のような雇用管理上の措置義務が課されます(今後指針で詳細が示される予定)。
- 方針の明確化・周知啓発
社内外に対して、「従業員を守る」「理不尽な要求には応じない」という方針を発信する。 - 相談体制の整備
従業員が安心して相談できる窓口や体制を設ける(社内外問わず)。 - 発生後の迅速な対応
相談を受けたら速やかに事実確認・被害者保護・必要な措置(警察等の連携含む)を行う。 - プライバシー保護・不利益取扱い禁止
相談したことで不利益な扱いを受けない仕組みづくり。
こうした措置は、ポスターを貼るだけではなく実効性ある運用が求められます。
3. 就活セクハラ対策とは? その範囲とポイント
◆就職活動中の性的言動も「ハラスメント」の対象に
今回の改正では、採用選考に関わる性に関する不適切な言動が「就活セクハラ」として防止措置の対象になります。
面接・説明会・インターンシップはもちろん、OB/OG訪問やSNSでの選考に関わるやりとりも対象となる可能性が示されています。
◆業務関連性の考え方
必ずしも私的なメッセージ全般が対象になるわけではなく、採用活動との関連性があるかどうかが判断の基準になります。
◆相談体制の配慮
求職者は人事担当者への相談をためらいがちです。
指針案では人事部以外の相談窓口や外部機関との連携が有効とされています。
4. なぜハラスメント対策が経済政策の中心か?
この義務化は単なる労働環境改善のルール追加ではありません。
ハラスメントが起きる職場では、従業員の心身の疲弊、パフォーマンスの低下、離職・採用コストの増大などが生じます。 労働力の質と量を保ち、社会全体の生産性を向上させることは、人口減少下の日本の成長戦略そのものです。
「安全に働ける環境づくり=経済成長の戦略」という視点が、今回の法改正の真の意図とも言えます。
5. まとめ:新ルールは「スタートライン」
令和8年10月1日から、企業には以下が義務付けられます:
- カスハラ対策の実施
- 就活セクハラ対策の整備
これらは、働く人すべての安全・尊厳を守る盾であり、組織の健全性を高める投資でもあります。法令だけでなく、社会通念という基準にも目を向けながら、企業は実効性ある対策を構築していく必要があります。
