企業のホームページや名刺などでよく見かけるシンボルマーク。「くるみん」マークや「えるぼし」マークは、その代表例です。各省庁が発行するものや、民間企業が発行するものなど種類は様々。本記事では、企業が押さえておきたいシンボルマーク・認定制度、表彰制度と、それらを取得するメリットについてご紹介します。
お勧めしたい「シンボルマーク・認定制度」一覧
数多くあるシンボルマークや認定制度ですが、ここでは4つのジャンルに分けた、14個を紹介します。ジャンルの1つ目は、もっとも定番の「ダイバーシティ」、2つ目は従業員の安全と健康に関わる「安全衛生」、3つ目が「労務管理」。そして最後に昨今のトレンドを鑑み、押さえておきたい「そのほか」の3つです。それでは、順に見ていきましょう。
ダイバーシティ<7選>
えるぼし(プラチナえるぼし)認定 ※女性活躍
えるぼしは、女性が活躍している企業に付与されるシンボルマークです。評価項目は、女性の採用比率、管理職比率、継続就業状況、多様なキャリアパスなど。実施状況に応じて3段階のえるぼしがあり、さらに上位にプラチナえるぼしがあります。
なでしこ銘柄 ※女性活躍
なでしこ銘柄は、女性活躍推進に優れた企業を、上場企業の中から選定する制度です。経済産業省と東京証券取引所が共同で実施。女性活躍度調査のスコアリング結果に財務指標(ROE)による加点を経て決定されます。なお、調査では、女性の従業員比率、平均勤続年数、採用人数、管理職・役員比率のほか、有給・育休の取得状況などが問われます。
くるみん(プラチナくるみん)認定 ※子育て
くるみんは、従業員の子育て支援に対して積極的に取り組む企業に付与されるシンボルマークです。評価項目は、子育て支援に向けた行動計画の策定、計画に対する達成状況、育休取得状況(男女)、時短勤務制度、残業削減状況、有給取得促進など。くるみんのさらに上位認定として、プラチナくるみんがあります。
イクメン企業アワード ※子育て
イクメン企業アワードは、男性従業員の育児と仕事の両立を推進し、業務改善を図る企業を「イクメン推進企業」として表彰する制度。評価項目は、男性の育休取得状況、仕事と育児の両立支援環境など。企業を表彰する「企業アワード」に加え、育児支援に前向きな管理職を表彰する「イクボスアワード」もあります。
トモニンマーク ※介護
トモニンマークは、「仕事と介護を両立できる職場環境」の整備に努めた企業に付与されるシンボルマーク。評価項目は、仕事と介護の両立を図る取り組み(介護休暇・介護短時間勤務など)を実施していること。厚生労働省の「両立支援のひろば」に登録するだけでよく、比較的容易に取得できるマークです。
もにす認定 ※障がい者雇用
もにす認定は、正式名称を「障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度」と呼び、障害者の雇用の促進・雇用の安定に積極的に取り組む中小企業を認定する制度です。評価項目は、障がい者雇用の取り組みと成果、法定雇用率の達成状況などです。
ユースエール認定 ※若者育成
ユースエール認定は、若者の採用・育成に積極的で、若者の雇用管理の状況などが優良な中小企業を認定するもの。評価項目は、若手の正社員募集状況、人材育成に対する取り組み、雇用情報(平均勤続年数等)などです。
安全衛生<2選>
健康経営優良法人
健康経営優良法人は、地域の健康課題に即した取り組みや、日本健康会議(※)が進める健康増進の取り組みをもとに、特に優良な健康経営を実践している大企業・中小企業を表彰するもの。企業規模に応じて「大規模法人部門(上位法人には「ホワイト500」の冠を付加)」と「中小規模法人部門(上位法人には「ブライト500」の冠を付加)」の2つに分かれています。評価項目は、定期検診受診率、ストレスチェックの実施状況、受動喫煙対策状況などです。
安全衛生優良企業認定
安全衛生優良企業認定は、労働者の安全や健康を確保するための対策にしっかりと取り組み、高い安全衛生水準を維持・改善している企業を認定するもの。評価基準は、労災の発生状況、安全衛生確保に対する取り組み状況、健康で働きやすい職場環境に向けた取り組み状況などです。
労務管理<2選>
ホワイト企業認定
ホワイト企業認定は、企業の「ホワイト度」を認定するものです。民間のホワイト財団が実施。評価項目は、ビジネスモデル・生産性から、ワーク‣ライフバランス、健康経営、人材育成・働きがい、ダイバーシティ&インクルージョン、リスクマネジメント、労働法遵守までと幅広い点が特徴。レギュラーからプラチナまでの5段階に分かれています。
社労士診断認証制度
社労士診断認証制度は、労務コンプライアンスや働き方改革に取り組む企業を認証する制度です。社労士が診断を行い、取り組み状況に応じて、「職場環境改善宣言企業」「経営労務診断(R)実施企業」「経営労務診断(R)適合企業」の3段階で認証します。
その他<3選>
プライバシーマーク
プライバシーマークは、個人情報について適切な保護措置を講ずる体制を整備している企業に付与されるシンボルマークです。評価項目は、個人情報保護方針の策定、個人情報保護のための台帳整備、内部規定の整備など多岐にわたります。
エコ・ファーストマーク
エコ・ファーストマークは、地球温暖化対策、廃棄物・リサイクル対策など、自らの環境保全に関する取り組みを約束し、その企業が「先進的、独自的でかつ業界をリードする事業活動」を実施している場合に付与されるシンボルマークです。環境省が運営しています。
DX銘柄
DX銘柄は、企業価値の向上につながるDXを推進するための仕組みを社内に構築し、優れたデジタル活用の実績が表れている企業を、上場企業の中から選定するものです。経済産業省と東京証券取引所が実施しています。評価基準は、DX戦略の中身、DX責任者の配置、達成状況を確認するKPIの設置などです。
「シンボルマーク・認定」を取得するメリット
企業のブランドイメージがよくなる
先ほど例に挙げた14個のシンボルマーク・認定制度は、昨今の潮流に乗ったものばかり。ダイバーシティ&インクルージョンの促進や、労務管理の適正化は、国をあげて動きを加速している最中ですし、個人情報の適正管理やエコ・ファーストも、企業が今後より力を入れていかねばならないテーマだといえます。目指す方向性として「正しい」と、すでに社会が合意をしているものばかりなので、先陣を切って積極的に取り組み、その証を得ることで、社外から見た企業のブランドイメージは、確実に高まるはずです。
採用競争力が高まる
新卒時の就職活動では、企業のブランドイメージだけで入社を決めるケースも多いように見受けます。一方で、2社目以降、つまり転職時は、前職に対して何らかの不満を持って退職する人が多いため、転職先を選ぶ際の目は、新卒時よりも厳しく慎重です。なので、細やかな社内制度も含めて、「働きやすい環境かどうか」を精査されます。「くるみん」や「なでしこ」「イクメン」といった国が主導するシンボルマークを得ていれば、求職者への訴求力が強まり、採用競争力が高まることは間違いないでしょう。
種類によっては)公共調達や補助金などで優遇される
国が実施しているシンボルマークや認定に関しては、政府が民間からモノやシステムを調達する公共調達において加点評価となるケースがあります。また、補助金を受給できたり、税制上の優遇措置を受けられるものも。例えば、「くるみん」や「えるぼし」認定企業は、公共調達時に加点評価されることもあるようです。取っておいて損はないものなので、ぜひ積極的に取得してみてはどうでしょうか。
どの「シンボルマーク・認定」を取得すればいいのか?
上記では、14個のシンボルマーク・認定制度を紹介しましたが、このほかにもたくさんマークは存在します。これだけあると、「何を取得すればいいのか」分からなくなりそうです。どれを取得すると、より効果的なのでしょうか。
これを考える際、判断基準になるのが「誰に対して、何をアピールしたいか」です。人材獲得につなげたいのか、受注獲得につなげたいのか、あるいはざっくりと企業のブランドイメージを高めたいのか etc…
人材獲得を目的とするなら、ダイバーシティや労務管理、安全衛生関連がお勧めです。例えば、プレ・ファミリー層を採用したいのであれば、「くるみん」や「イクボス」が効果的でしょう。また、女性の採用を強化したいのであれば、「えるぼし」が有効です。広く対外的に、法令遵守度合いをアピールしたいのであれば、「ホワイト企業認定」や「社労士診断認証」もお勧めします。
上場企業だと、「ダイバーシティ関連は取得済みだ」という企業も多いでしょう。その場合は、少しハードルが高くなりますが、調査票の評価軸をよく確認して、2銘柄(なでしこ/DX)を狙ってみるのもいいのではないかと思います。
また、慎重に扱うべき個人情報を数多く保有している企業は、時間をかけてでもプライバシーマークを取得するべきです。社外から見た際の信頼度合いが、格段に変わってきます。それと、SDGsが声高に叫ばれている昨今ですから、業界に先駆けてエコ・ファーストマークを取得し、社外に自社の取り組みを発信していくのも、ブランドイメージを高めるうえで、有効な手段だと思います。
取得した「シンボルマーク・認定」をどう使う?
マークや認定を取得しても、活かさなければ意味がありません。取得後は、ホームページの採用ページや会社案内に掲載したり、厚生労働省の運営する「しょくらぼ」に掲載したり、名刺に載せたりと、関連各所に露出することをお勧めします。取得したタイミングで、プレスリリースを出す企業も多いようです。「取得して終わり」ではなく、ターゲットとしている人に対して、確実に「情報を届ける」ところまでを意識しましょう。
さいごに
シンボルマークや認定を取得する際、自社の経営方針や行動計画、労働条件を公表する必要のあるものも多いです。経営方針はまだしも、残業時間や有給取得率、平均年収といった労働条件、あるいは男女比率まで公表することに、抵抗感を感じる企業もあるだろうと推測します。しかしこれらの数値は、労務管理の健全度を示す“KPI”のようなもの。指標なくして、改善は望めません。また、公表することで緊張感が生じます。ですから、現状、芳しくない数値もあえて公表し、緊張感を持って改善に努めていく――そんな風に活用していくとよいのではないでしょうか。なお、「取得を検討したい」という企業は、ぜひ顧問社労士に相談を。力強くサポートしてくれるはずです。
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。