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【社労士が解説】「大阪医科薬科大学・メトロコマース・日本郵便」~3つの最高裁判決から考える、同一労働同一賃金で注意すべきポイント

投稿日:2020年11月14日

「働き方改革」の一環で、2020年4月にスタートした「同一労働同一賃金」。正規雇用(正社員など)と非正規雇用(契約社員、アルバイト、派遣社員など)の間にある不合理な待遇格差を禁じるものです。2020年10月、同一労働同一賃金に関する裁判の最高裁判決が立て続けに3件下されました。10月13日に出た大阪医科薬科大学とメトロコマースの2事案については、訴えた労働者側の敗訴。同月15日に出た日本郵便の事案については、労働者側が勝訴する決着でした。本記事では、3つの事案を解説しながら、今回の判決をもとに企業が注意すべきポイントを考えます。

【判例(1)】学校法人 大阪医科薬科大学

どんな裁判?

大阪医科薬科大学(旧・大阪医科大学)に勤務するアルバイトの職員が、正職員との間で不合理な待遇差があるとし、差額相当額と慰謝料を合計した約1270万円の支払いを求めた裁判です。

仕事内容や責任の範囲などに違いはあったのか?

同じ職場には、有期契約の「アルバイト職員」「契約職員」「嘱託職員」と、無期契約の「正職員」が一緒に勤務していました。その中で、アルバイト職員のみ就業規則が異なっていたそうです。

主な仕事内容は、教室内の秘書業務。正職員は人数が少なく、大学や附属病院などのあらゆる業務に携わり、責任度合いも大きいものでした。また、出向や配置転換の可能性もありました。一方で、アルバイトの職員の仕事は、定型的で簡便な作業が中心でした。つまり、仕事内容や責任の範囲、配置転換の可能性には、正職員とアルバイト職員の間で、ある程度の差があったということです。

訴えを起こしたアルバイト職員は、1年毎の有期労働契約を締結し、すでに3回更新済。ただし、最後の約1年については休職でした。また、所定労働時間は正職員と変わらず、フルタイムでの勤務だったといいます。

どのような待遇差が争点になったのか?

最高裁で争点になったのは、「賞与」と「私傷病欠勤中の賃金」の2点です。正職員は賞与が100%支給、契約職員にはその80%が支給されていた一方で、アルバイト職員には支給されていませんでした。また、私的な病気などにより長期欠勤した場合、正職員は6か月間にわたって給与の全額が支給され、さらに休職給(休職期間中において標準給与の2割)の支給がありましたが、アルバイトにはなかったそうです。

最高裁の判決は?

これに対して最高裁の判決は、アルバイト職員の訴えを退けるものでした。まず賞与について、正職員とアルバイト職員の間に、職務内容や責任の違いがあったこと。それを前提として、賞与には労務対価の後払いや功労報償の趣旨が含まれていることを鑑みて、不合理な差ではない、つまりアルバイトにだけ賞与がないことは妥当とされました。

また私傷病欠勤中の賃金についても、正職員が長期にわたり継続して働き、さらに将来にわたっても継続して働くことを期待されている一方で、同法人のアルバイト職員は、更新はあるものの契約期間は1年であり、長期雇用を前提としていないことから、こちらも不合理な差ではないとされました。

【判例(2)】株式会社メトロコマース

どんな裁判?

東京メトロの子会社であるメトロコマースで、駅売店の販売業務に従事する契約社員(区分B)の4名が、正社員との間で不合理な待遇差があるとし、差額相当額と慰謝料を合計した約4560万円の支払いを求めた裁判です。

仕事内容や責任の範囲などに違いはあったのか?

同じ職場には、「正社員」と「契約社員A(現・職種限定社員)」、「契約社員B」が一緒に勤務し、それぞれ就業規則が異なりました。この中で、正社員のみが無期雇用、契約社員Aは契約期間1年の有期雇用、契約社員Bは契約期間を1年以内とする有期雇用だったそうです。

主な仕事内容は、いずれも駅売店での販売業務で大差はありませんでしたが、正社員は通常業務に加えて、スタッフの欠勤・休暇時の代理対応や、売上向上施策、トラブル処理などを行っていました。また、正社員は他部署に配置転換があるほか、関連会社に出向する可能性もありました。

一方、契約社員Bは一時的・補完的な業務に従事する者という位置づけで、業務場所の変更はあっても、業務内容や配置転換・出向などの可能性はありませんでした。つまり、正社員と契約社員Bの間で、仕事内容や責任の範囲、配置転換の可能性に、ある程度の差があったということです。

どのような待遇差が争点になったのか?

最高裁で争点になったのは、「退職金」です。正社員には「本給×勤続年数に応じた支給月数」で計算される退職金があった一方で、契約社員Bには退職金の支給がありませんでした。なお、契約社員Aについては、もともと退職金はなかったものの、平成28年の組織変更により支給されることになったそうです。

最高裁の判決は?

これに対し最高裁の判決は、契約社員の訴えを退けるものでした。退職金の支給が認められなかった理由には、次のようなことが挙げられています。まず、メトロコマースの退職金の額は、「本給×勤続年数に応じた支給月数」で決定されます。算定の基礎ともなる本給は、年齢給のほか職務遂行能力や責任の程度を踏まえたうえで決められており、労務対価の後払いや継続勤務に対する功労報償的な要素も含まれています。したがって、継続的かつ様々な部署で活躍が期待される正社員のみに退職金を支払うことは、不合理ではなく妥当だという判決でした。

【判例(3)】日本郵便株式会社

どんな裁判?

日本郵便で集配や窓口業務に従事する契約社員ら12名が、正社員との間で不合理な待遇差があるとし、損害賠償の支払いを求めた裁判です。この裁判は、東京、大阪、佐賀の3地裁で起こされました。

仕事内容や責任の範囲などに違いはあったのか?

同じ職場には、無期契約の「正社員」と有期契約の「契約社員」が存在し、それぞれ適用される就業規則が異なっていました。仕事の範囲にも違いがあり、正社員は幅広い仕事に従事し、昇任・昇格により役割・職責が大きく変動する可能性や、配置転換の可能性もあるほか、部下の育成・指導、組織全体への貢献なども求められていました。

一方で、契約社員は特定の業務を担当し、昇任・昇格は予定されていませんでした。別の郵便局に移る場合も、契約を締結し直す取り決めとなっていたそうです。

どのような待遇差が争点になったのか?

最高裁で争点となったのは、正社員のみに支払われていた「年末年始勤務手当」「扶養手当」「夏季・冬季休暇手当」「有給病気休暇」「祝日手当」の5つの手当です。

最高裁の判決は?

これに対し最高裁の判決は、原告の訴えを認め、5つの手当すべてについて、契約社員に支給しないことは不合理であるとの判決を下しました。それぞれの理由については以下のとおりです。

「年末年始勤務手当」と年始期間の「祝日手当」について。これらは、年末年始という最繁忙期に働く労苦に報いることを目的とした手当であり、正社員・契約社員に関わらず労苦は同等だとし、待遇差を設けるべきではないとされました。

次に「扶養手当」についてですが、これは生活保障や福利厚生を図り、扶養家族のある社員の生活設計を容易にすることで、長く働いてもらうことを目的に設けた手当です。日本郵便では、契約社員の契約期間は6カ月~1年であるものの、更新を繰り返している社員も多く、契約社員についても正社員と同様に継続雇用が見込まれていると推測できます。よって、扶養手当についても不合理な待遇差だとされました。

次に、「夏季・冬季休暇手当」について。夏季・冬季休暇手当の趣旨は、労働から離れることで心身の回復を図るものとされています。日本郵便の契約社員は、短時間や繁忙期だけのパートタイム勤務ではなく、正社員と同様のフルタイムかつ継続勤務であることから、待遇差を設けることは不合理だとされました。

最後に、「有給病気休暇」についてです。これは、私的起因の病気で休む場合、正社員に対しては有給休暇を与える一方で、契約社員に対しては無給休暇のみを与える制度についての是非が問われました。これについても、正社員、契約社員ともに継続雇用が見込まれているため、不合理な待遇差であるとの判決が下りました。

これらの判決から、企業は何に注意すべきなのか?

原告の雇用形態 仕事内容や責任範囲の違い 争点となった対偶差 判別
大阪医科薬科大学 アルバイト あり 1. 賞与
2. 私傷病欠勤中の賃金
いずれも
不合理ではない
メトロコマース 契約社員 あり 1. 退職金 不合理ではない
日本郵便 契約社員 あり 1. 年末年始勤務手当
2. 祝日手当
3. 扶養手当
4. 夏季・冬季休暇手当
5. 有給病気休暇
すべて
不合理である

これらの3事案を企業から見た場合、もっとも注目すべきは、やはり最後にご紹介した日本郵便の最高裁判決です。正社員と契約社員の間に、仕事内容や責任の度合い、配置転換の可能性といった違いはあるとしながらも、それぞれの手当の性質や趣旨を考えて、待遇差を設けることは不合理だとの着地となりました。

このことから、企業はあらためて自社の賃金制度や福利厚生を洗い出し、それぞれの項目について趣旨・目的・意味づけを考え直す必要があることが分かります。たとえば、「祝日出勤手当は何のために支払っているのか」「住宅手当は何のために支払っているのか」「賞与の目的は?」「それらについて、正規・非正規間で待遇差を設けることは妥当か?」といった具合です。

賞与と退職金については、今回、原告側の敗訴となりましたが、ケースが異なれば勝訴となった可能性もあります。実際に、大阪医科薬科大学とメトロコマースの事例は、高裁で企業に一部支払いを命じる判決が出ていました。ですから、「賞与や退職金は待遇差があっても大丈夫」と考えるのは早計です。

自社制度の見直しをする場合で、何から手をつければいいのかが分からない際は、ぜひ社労士を頼ってみてください。また以下の記事でも、同一労働同一賃金への対応手順をまとめています。参考にしていただければと思います。

ライター:林 和歌子
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。

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