従業員の働く環境をつくる(労務管理機能) 読みもの(人事・労務向け記事)

【Q&A】退職する社員が引継ぎをせずに退職日まで「有給消化」する希望は応じるべき?

投稿日:2019年4月6日

退職が決まっている従業員が後任者に引継ぎをせず、「退職日までに有給消化する」と言ってきた場合は、どう対応すれば良いでしょうか?

経営者が有給休暇を買い取れば、従業員に退職日まで働いてもらうことができるのか、気になるところです。今回は、退職時の有給休暇と引継ぎについて詳しく解説していきます。

引継ぎを理由に有給休暇の取得の拒否はできない

労働基準法39条には、労働者は有給休暇を取得する権利があると認められています。会社に有給休暇を取得したいと伝えれば、会社は労働者の希望する日に有給休暇を与える義務があり、拒否することはできません。

例外として、会社は従業員が有給休暇を取得することにより、事業の正常な運営を妨げる場合に限り、有給休暇の取得日の変更を求めることができます。

引継ぎなしで有給を認めないといけないの?

会社は事業の「正常な運営を妨げる場合」のみ、例外的に年次有給休暇の取得日を変更させることができます。

この権利を「有給休暇請求に対する時季変更権」といい、労働基準法で認められています。「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、業務繁忙期に申請があった場合の他にも、引継ぎをせず、業務に支障をきたす場合も該当します。就業規則に退職時の引継ぎルールを定めていれば引継ぎ業務を優先させることが可能です。

しかし、実際に会社が「有給休暇請求に対する時季変更権」を行使するには、具体的に業務に支障をきたす理由を明らかにする必要があり、難しいのが現状です。退職者とのトラブルを防止するためにも、就業規則に退職時の業務について記載すると良いでしょう。

有給休暇の買い取りはできる?

有給休暇の買取について

会社としては、退職者の引継ぎ業務が残っている場合、未消化分の有給休暇を買い取りしたいと考えるでしょう。そもそも有給休暇とは、本来、労働者が仕事から離れて、心身ともにゆっくり休みを取るための権利です。

原則として、従業員から未消化分の有給を買い取ってもらうように申し出があっても、買い取ることは許されません。

例外的に認められる有給の買い取り

①労働基準法で定められている有給休暇の日数を超えて取得した場合
②2年の時効により消滅してしまった有給休暇を買い取る場合
③退職時に残っている有給休暇を買い取る場合

注意点としては、上記の3つの例外は法律で定められた義務ではありません。
一般的には、有給が消化できないからといった理由で買い取りすることはできないと考えてください。

有給休暇を残して退職したらどうなる?

有給休暇は、労働者が雇われている会社にのみ請求することができる権利です。一度退職してしまうと、有給休暇取得の権利を行使することができません。
万が一、有給休暇の日数が残ってしまった場合でも会社が有給休暇を買い取る法的義務はありません。
退職が決まったら、引継ぎに必要な日数と未消化の有給休暇日数から退職日を決めて、労働者と会社の双方にとって良い方法を決定しましょう。

まとめ

退職前に残った有給を消化することは労働者の権利です。しかし通常は、引継ぎ業務を終えてから、有給消化に入るのが無難な流れといえます。

人事担当者は、引継ぎに必要な日数がどのくらいかあらかじめ計算する必要があります。日頃から、退職を申し出るタイミングや退職日は早めに相談できる環境を整えておくことも大切です。就業規則には、退職日までに業務の引継ぎをするように定めておくこともおすすめします。

-従業員の働く環境をつくる(労務管理機能), 読みもの(人事・労務向け記事)
-

関連記事

【社労士が提案】働き方改革、ポジティブに残業時間を減らしていくための対応方法とは?

2018年6月に成立した「働き方改革関連法」。これにより、時間外労働の上限規制が今以上に厳しくなります。特別条項付きの36協定を締結しない限り、時間外労働の上限は「月45h・年360h」です。特別条項 …

【2019年4月施行】「健康情報取扱規定」の策定が義務化!企業の対応策とは?

2019年4月からスタートする安全衛生法の改正により、企業は「健康情報取扱規定」の策定が義務づけられることになりました。 前回の記事では、「健康情報取扱規定」とは、企業が従業員の健康情報を取得・管理す …

65歳超雇用推進助成金の65歳超継続雇用促進コースを解説!

高齢化社会では若年労働者は減少します。自社の従業員が高齢に達して新規採用を行う場合でも新卒のような若年層は競争が激しく、困難になっていきます。これまでのような定年制度を維持していては人手不足になり、安 …

【2020年6月施行】パワハラ防止法、企業に義務化される内容や罰則を社労士が解説!

2019年5月に、「パワハラ防止法(労働施策総合推進法)」が成立しました。職場内のパワハラを防止することが、企業にとって義務となります。最近、某芸能事務所の社長が、社員や所属タレントに対して高圧的な態 …

【社労士が解説】従業員の健康管理と「ヒトを大切にする経営」

安全衛生法が改正となり、2019年4月より、すべての企業を対象に「健康情報取扱規程」の策定が義務づけられました。 背景には、ストレスチェック制度の導入や、産業医による面接指導が強化されたことで、企業が …