建設業においては高齢化が進み、今後退職者が増加することが予想されます。一方、昨今の少子高齢化の進展と、慢性的な長時間労働などの実態から、人材確保が難しいのが現状です。このままでは建設業の担い手不足が深刻化するため、働き方改革が求められています。また、これまで建設業では労働基準法による時間外労働規制が適用除外とされていましたが、2024年4月からこれが適用されることからも、働き方改革は不可避となっています。
この記事では、建設業の働き方の現状と2024年問題の概要、働き方改革の取り組み、時間外労働規制への対応方法などを紹介します。
2024年問題とは何か
建設業の働き方の現状
国土交通省によると、建設業の年齢階層別建設技能者数では、令和3年時点で60歳以上の技能者が全体の約4分の1(25.7%)を占める一方、29歳以下の技能者は11.7%であり、今後10年以内に大量退職が見込まれるため、若年技能者の確保が喫緊の課題となっています。
一方、建設業における働き方の現状を見ると、年間総実労働時間で全産業と比べ68時間長く(令和4年)、休日数では4週6休程度が最多(令和5年公表データ)で週休2日を確保できていない状況で、長時間労働が慢性化している実態がうかがえます。
若年技能者確保のためには、働き方改革が急務と言えるでしょう。
建設業の2024年問題とは?
働き方改革関連法に基づく労働基準法の改正により、2019年4月より時間外労働の上限規制が設けられました。建設業についてはこれまで適用が猶予されていましたが、2024年4月より適用されることになり、その内容は以下の通りです。
- 時間外労働の上限は原則月45時間、年360時間
- 36協定の特別条項(臨時的な特別な事情があり、労使が合意する場合)を設ける場合は時間外労働が年720時間以内、時間外労働+休日労働が月100時間未満、2~6か月平均80時間以内、時間外労働月45時間超は年間6回以内
- 特別条項がない場合でも時間外労働+休日労働が月100時間未満、2~6か月平均80時間以内
※災害時における復旧・復興事業の場合は、時間外労働+休日労働月100時間未満、2~6か 月平均80時間以内は適用されない。
上記の規定に違反した場合には罰則(6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科される可能性があります。
これに伴い、建設業においては人材不足や、それに伴う長時間労働の解消等による働き方改革が急務であり、これが建設業の2024年問題と言われています。
建設業における働き方改革に向けた国の取り組み
建設業における働き方改革を進めるため、2019年6月には新・担い手3法(公共工事の品質確保の促進に関する法律、建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の改正)に基づき、諸施策が進められています。主な内容は以下の通りで、適切な代金と工期で工事契約を結ぶこと、社会保険加入を進めること、ICTの活用については特に注意する必要があります。
発注者による適切な工期設定、受注者による適正な請負代金・工期での契約締結
- 中央建設業審議会による「工期に関する基準」の作成・勧告
- 著しく短い工期での請負契約締結禁止
- 「著しく短い」については、工期に関する基準で考慮すべきとされていることに基づき適切に工期が設定されているか、過去の同種の工事との比較において適正か、などの点から判断します。判断にあたっては受注者における違法な長時間労働が発生していないか、という観点が重視されます。違反した場合には、国土交通大臣による勧告・公表の可能性があります。
発注者による工期確保、施工時期平準化措置の努力義務化
◾️現場の処遇改善
- 社会保険加入を建設業の許可要件化
- 下請代金のうち労務費相当を現金払い
◾️生産性向上
- ICTの活用
- 工事現場技術者に関する規制の合理化
週休2日は義務化?制度への対応は必要?
建設業の働き方改革の一環として、国土交通省では「週休2日の推進」を掲げています。ただし、これは「週休2日制」を義務化するということではなく、結果として週休2日制を導入できるようにするための諸施策を進めることを意味しています。
例えば国の直轄工事において週休2日が確保できるよう適正な工期設定を行い、週休2日の確保で工期が延伸することに伴う労務費や諸経費への必要経費の反映を行っています。都道府県や政令指定都市の工事でも同様に取り組まれています。
このような取り組みを受け、工事を請け負う建設業においても週休2日制を導入することが求められていると言えるでしょうます。例えば、1年単位の変形労働時間制を採用することも、年間の業務の繁閑に応じて労働時間を変更することができるため、週休2日推進の取り組み施策としては検討の価値があります。
時間外労働の規制への対策は?36協定の作成ポイント
時間外労働の上限規制への対応にあたり、主に以下の3つの対策を進める必要があります。
対策を進めるにあたっては社会保険労務士などの専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
労働時間の適正把握・管理
時間外労働や休日労働の発生状況を正確に把握することが重要です。事業者には労働時間を適正に把握することが義務付けられていますので、確実に実施しなければなりません。タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間記録等の客観的な記録が原則ですが、自己申告による場合でも従業員に適正に申告させる必要があります。勤怠管理システムの導入も良い方法と言えるでしょう。
36協定の締結とそのポイント
36協定の締結にあたっては、通常の手続(団体交渉、協定締結、就業規則変更、労働者への説明、労働基準監督署への届出)を遺漏なく行うとともに、以下の点に注意します。
- 時間外労働・休日労働は必要最小限にとどめる。限度時間を超える場合でも限度時間にできるだけ近づけるよう努める。
- 協定で定める上限時間の範囲内であっても、労働契約法に定める安全配慮義務を負う。限度時間を超える場合の労働者の健康・福祉確保措置も協定事項に入れることが望ましい。
- 特別条項では「臨時的な特別な事情で限度時間を超えて労働させる必要のある場合」を具体的に定める。「業務上やむを得ない場合」「業務の都合上必要な場合」といった恒常的な長時間労働の可能性があるものは認められない。
給与体系の適正化
給与体系を見直したり、社会保険の加入など、人材の定着につながる制度にする必要があります。給与体系については、スキルを適切に反映する仕組み作りが重要で、国土交通省が導入を推奨する建設キャリアアップシステム(CCUS)を活用するのも一案と言えるでしょう。
建設業の働き方改革のための助成金
建設業における人材の雇用、定着、訓練等に対する助成金制度があります。助成金を活用して若年者や女性などを雇用し、定着を進めることで人材の確保につなげ、働き方改革に向けた取り組みを進めることができます。なお、賃金を向上させる取り組みを行った場合には助成額を増額する制度もあります。
トライアル雇用助成金、人材確保等支援助成金、人材開発支援助成金の3つがあります。詳細は以下のURLにてご確認ください。申請にあたっては、社会保険労務士など専門家のアドバイスを受けるとよいでしょう。
まとめ
建設業における時間外労働の上限規制に向け、働き方改革を進めることが急務となっています。少子高齢化が進む中、人材確保がますます困難になることが想定されるため、働き方改革の取り組みは自社の魅力を高め、人材の採用や定着のためにも非常に重要と言えます。今回紹介した内容を参考にして、自社の更なる発展につなげましょう。