人事労務管理の戦略 読みもの(人事・労務向け記事)

自社の労務健全度を社外にアピールできる!? 社労士が診断する「社労士診断認証制度」の具体的な中身を解説

投稿日:2021年10月1日

全国社会保険労務士会連合会が、2020年4月に開始した「社労士診断認証制度」。労務管理のプロである社労士が、企業の労務管理の健全度を確認・診断するものです。採用シーンなどで、自社の取り組みをアピールできるといった活用方法が期待されています。本記事では、制度の具体的な内容、取得方法、得られるメリットなどについて紹介します。

2020年4月に始まった「社労士診断認証制度」って何?

「社労士診断認証制度」とは、労務コンプライアンスや働き方改革に積極的に取り組む企業を認証する制度です。2020年4月に全国社会保険労務士会連合会(※1)が、新たな事業として開始しました。職場の健全化に取り組む企業を、社労士が診断し、該当する認証マークを付与します。マークには(1)職場環境改善宣言企業、(2)経営労務診断™実施企業、(3)経営労務診断™適合企業の3種類があります。

付与されたマークは、求人広告上に掲出したり、会社案内や名刺に掲載したりすることができ、自社のアピールに活用できます。また、全国社会保険労務士会連合会の運営するサイト上に、労務健全度を示す情報を掲示することも可能です。

【3種類の認証マーク】

では、3種類の認証マークの「違い」は何なのでしょうか。

(1)職場環境改善宣言企業

1つ目の「職場環境改善宣言企業」は、社労士とともに「職場環境改善宣言企業」確認シート(後述)の項目を確認し、改善に取り組むことを宣言すれば取得できます。ほかの2つと比較しての特徴は「宣言」だけで取得できるという点です。つまり、もっとも取得が容易なマークだといえます。

(2)経営労務診断™実施企業

2つ目の「経営労務診断™実施企業」は、(1)の宣言を行ったうえで、「経営労務診断™基準」(後述)に基づき、所定の項目について社労士に確認を受けた企業が取得できます。(1)との違いは「宣言」だけではなく、「実施」していること。ただし、項目すべてを実施していなくても取得が可能です。

(3)経営労務診断™適合企業

3つ目の「経営労務診断™適合企業」は、(1)の宣言を行ったうえで、所定の項目について社労士に確認を受け、「経営労務診断™基準」に基づき必須項目の「すべて」が適正と認められた企業が取得できます。(2)が一部でも取得できることに対し、(3)はすべての項目を満たした企業である必要があります。

したがって、基本的な取得の流れとしては、(1)職場環境改善宣言企業→(2)経営労務診断™実施企業→(3)経営労務診断™適合企業の順番でステップアップすることになるでしょう。

※1:全国社会保険労務士会連合会とは、各都道府県にある社会保険労務士会の連合組織で、厚生労働大臣の認可を受けた法定団体。

取得の判断基準となる「評価項目」とは?

「職場環境改善宣言企業」確認シート

(1)で用いる「職場環境改善宣言企業」確認シートは、次のようなフォーマットになっています。評価項目は、主に「労務コンプライアンス」と「働き方の多様化対応」の2つ。細かくは、以下の20項目です。

「職場環境改善宣言企業」 確認シート(全国社会保険労務士会連合会)

大項目の「労務コンプライアンス」のNo.1~14に関しては、昨今の働き方改革の中で、声高に叫ばれてきたものが多く含まれています。たとえば、長時間労働の是正や年次有給休暇の付与などは、働き方改革の3本柱に含まれるものでした。また、ハラスメントに対する対応についても、国をあげて改善しようと取り組みが進んでいる最中のもの。健全な企業を目指すのであれば、守らねばならないポイントが示されています。

一方、「働き方の多様化対応」のNo.15~20に関しては、これからの企業に必要とされている「ダイバーシティ&インクルージョン」の考え方にのっとったものといえるでしょう。たとえば、親を介護しながら働く人、自身が闘病中の人、女性、高齢者、外国人、障がい者、あるいは何らかの理由で短時間しか働けない人などが、適正な労務管理のもとフェアに働ける社会を目指すものだといえます。

これらの各項目を社労士と一緒に確認し、積極的に取り組んでいくことを宣言すれば、「はい」の数の多い少ないに関わらず、「職場環境改善宣言企業」マークを取得することができます

「経営労務診断™基準」

(2)(3)で用いる「経営労務診断™基準」は、ざっくりと「労務管理」「組織体制」「数値情報」の大きく3つのパートに分かれています。

1つ目の「労務管理に関する調査事項」には、以下の項目がリストアップされています。それぞれの項目に対し、社労士が「適正か」「改善点があるか」、そもそも「対象外か」を判断します

労務管理に関する調査事項

1‐1 労務管理関連規程の整備

(1)就業規則の作成・届け出(2)労働条件関連の定め(3)賃⾦関連の定め(4)育児・介護休業関連の定め(5)ハラスメント対応⽅針

1‐2 労務関連管理体制

(1)労働時間管理、休憩・休⽇(2)労働時間関連労使協定(36 協定など)(3)年次有給休暇の付与・管理(4)⼀般健康診断(雇⼊時・定期・特定業務等)・ストレスチェックの実施、安全衛⽣管理体制(5)ハラスメント相談体制の整備

1‐3 帳簿等の調製、保管

(1)労働者名簿(2)賃⾦台帳(3)勤務表・タイムカード(4)年次有給休暇管理簿

1‐4 労働保険・社会保険

(1)労災保険・雇⽤保険の加⼊(2)健康保険・厚⽣年⾦保険の加⼊

組織体制に関する確認項目

続いての組織体制に関する確認項目では、次の3つが「策定されているか」を確認します。これらは、法律で策定が義務づけられているものではないため、任意項目とされています。

(1)組織図、組織規程
(2)職務(業務)分掌規程
(3)職務(業務)権限規程

労務管理等に関する数値情報

最後に、労務管理に関連する数値情報を確認します。確認する項目としてリストアップされているのは次の通り。公表必須の項目と任意の項目があり、必須項目なのは★の2つだけです。また、男女ごと、正規・非正規ごとに数値を出して、公開しなければならない項目もあるため、注意が必要です。

(1)従業員数 ★公表必須
(2)平均年齢
(3)平均年収
(4)正規従業員の所定労働時間と法定労働時間 ★公表必須
(5)一月当たりの一人の平均残業時間
(6)従業員の平均勤続年数
(7)女性管理職・役員数
(8)採用における競争倍率(直近事業年度)
(9)継続雇用割合(10 事業年度前及びその前後に採用された従業員について)
(10)育児休業取得率と平均取得期間

実際に診断した結果(実例)

実際に、「経営労務診断™基準」に基づき確認を行い、公表したものが以下です。
(※本サイトの運営会社である株式会社セルズの公表情報より引用しています。)

労務管理に関する調査事項


各項目に対し、社労士が調査資料や聞き取りをもとに診断を行い、「適正です」「改善点があります」「対象外」の3つのうちいずれかを選択します。セルズ社の場合、すべてにおいて「適正です」が選択されています。もし、いずれかの項目に改善の余地がある場合は、「改善点があります」と表示されます。

組織体制に関する確認項目

これは、セルズ社以外から引用したものですが、策定されている場合は、上記のように「策定されています」と表示されます。

労務管理等に関する数値情報>※一部抜粋

数値情報に関しては、賃金台帳などをもとに、社労士とともに実際の数値を調べて公表します。項目に応じて、男女で分けなければならない場合、正規・非正規で分けなければならない場合などがあります。たとえば、上記の従業員数は、男女別かつ正規・非正規別で数値を出し、掲出する必要があります。これらの診断結果は、全国社会保険労務士会連合会の運営するこのサイトに掲載することができます。現在、すでに1000社近い企業の情報が載っているようですね。

取得することで、どのようなメリットがある?

企業がこれらのマークを取得することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。まず、これまで社内の中だけで共有されてきた労務コンプライアンスに関する情報が、社外へと公表されることで、自社の健全度を社外に示すことができます。しっかり労務改善に取り組んでいるのであれば、堂々と社外に発信し自社の信頼性向上につなげるとよいのではないでしょうか。

加えて、これらの情報がもっとも効果を発揮するのは、採用シーンでしょう。新しい仲間を募集する際に、自社の健全度を示すことで、求職者に対して強く訴求することができます。とくに、各種数値情報は、求職者にとって非常に参考になる情報になるでしょう。男女の比率、平均年齢などの情報から、「その職場と自分がマッチするのか」を判断できる、ひとつの材料となりそうです。

なので、前提として労務健全度を高めることが重要ですが、そのうえで情報を社外に公表し、上手く求職者へと伝達する流れを構築すれば、今まで以上に採用がうまくいくようになる可能性はあります。

認証マークの取得方法

(1)職場環境改善宣言企業の取得方法

まず、顧問社労士に依頼する、あるいは顧問社労士がいない場合は、新たに社労士を探しましょう。そして、確認シートを一緒に作成し、担当社労士が登録作業を行えば、全国社会保険労務士会連合会が運営するサイトに自社の情報が掲載されます。同時にマークが発行されるという流れです。

また、宣言だけなら、セルフチェックでの取得も可能です。WEB上で登録を行えば、申請から7日程度でマークを取得できるそうです。費用も不要なので、最短コースで取得したい方には、こちらの方法もオススメです。

(2)経営労務診断™実施企業/(3)経営労務診断™適合企業の取得方法

こちらも同様に社労士に診断を依頼します。依頼された社労士が、「経営労務診断™基準」に基づき確認・診断を行います。担当社労士は診断した内容をもとに登録作業を行い、それが終われば、全国社会保険労務士会連合会が運営するサイトに情報が掲載されます。同時に、それぞれの診断結果に応じたマークが発行されます。

さいごに

「社労士診断認証制度」は、企業の労務管理の健全度を測る、いわば労務管理の“健康診断”とも表現できる制度です。自社の健全度をアピールできる、ひとつの武器になるはずです。少しでも興味をお持ちであれば、ぜひ、全国社会保険労務士会連合会の運営する特設サイト(経営労務診断™のひろば)を確認し、マークの取得に向けた動きを開始してみてはどうでしょうか。なお、社労士の検索は、こちらから可能です。

ライター:林 和歌子
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。

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