2018年6月に成立した「働き方改革関連法」。8本の労働法が改正されるという一大改革となりました。
中でも、大企業は2020年4月1日、中小企業は2021年4月1日からの施行となる「同一労働同一賃金」の推進は、正規・非正規が混じって働く企業にとって、大きな影響をもたらす改革です。この記事では、「同一労働同一賃金」とは一体何なのか、どんな対応をすべきなのかについてご説明します。
同一労働同一賃金とは?いつから施行?
大企業は2020年4月1日、中小企業は2021年4月1日からの施行となる「同一労働同一賃金」。
同一労働同一賃金とは、「同じ仕事をしているのなら、雇用形態が違っても同じ賃金・処遇にすべきだという考え方」のことです。
現在、日本では多くの企業で、無期雇用のフルタイム社員、有期雇用の契約社員・パートタイマー、さらに派遣社員が入り混じって働いているという現状があります。
たいていの場合、無期雇用のフルタイム社員は、「正規雇用」として賃金・処遇面で優遇される一方で、有期雇用の契約社員やパートタイマー、派遣社員は、「非正規雇用」として正規雇用よりも低い賃金・処遇で雇用されています。つまり、無期か有期か、フルタイムかパートタイムか、直雇用か派遣かで、賃金・処遇に「不合理な差」が発生している、これが日本の雇用の「今」だと言えます。
この現状に対し、今回の法改正では、雇用形態に違いがあっても、同じ職場で同じ仕事をしているのであれば、正規雇用も非正規雇用も同じ賃金・処遇にし、不合理な待遇差を解消していくべきとする考えがまとめられました。
これにより政府は、労働条件の底上げと多様な働き方の実現を目指しています。労働条件の底上げという観点では、今や全労働者の約4割にも達しようとしている非正規雇用の賃金を上げることで、個人消費の拡大による日本経済の強化を。多様な働き方という観点では、若者も高齢者も、子育て中の女性も障がい者も、誰もが活躍できる「一億総活躍社会」の実現につなげていく狙いです。
ちなみに、これまでも同一労働同一賃金の考え方については、法律で規定されていました。ただ、パートタイムと契約社員、派遣で規定されている法律が違っていたり、内容にも若干ズレがありました。それを、今回統一して分かりやすくガイドラインにもまとめ、非正規雇用オールの取り組みとして、しっかり浸透させていこうというのが、今回の法改正の背景です。
【法改正のポイント】
●不合理な待遇差の禁止
同じ職場で同じ仕事に取り組む場合、正社員と、短時間労働者(パートタイマー)・ 有期雇用労働者(契約社員、派遣社員)の間に、基本給や賞与、 手当などあらゆる待遇について、不合理な待遇差が禁止されます。●待遇差に対する説明義務
事業主は、短時間労働者・有期雇用労働者などから、正社員との待遇差やそれを設ける理由について説明を求められた場合は、説明しなければなりません。※短時間労働者:パートタイマーなど
※有期雇用労働者:契約社員、派遣社員など
この場合、「同一労働にあたるのかどうか」の判断が難しいところですが、中核的な業務が同じならば、付随的に行う業務に多少差があっても「同一労働」とみなします。また、職種名が違っていても、実質的に同じ仕事をしているなら、やはり「同一労働」とみなします。
同一労働同一賃金の実現に向けて、企業が対応すべきこと
2020年の施行に向けて、企業はどんな準備をしておく必要があるのでしょうか。対応の手順について、厚生労働省の資料をもとにご説明します。
まず、現状の雇用形態・待遇差について確認をする
確認をするポイントは2つです。
1つ目は、自社内に正規雇用以外の非正規雇用(有期雇用の契約社員やパートタイマー、派遣社員など)がいるかどうか。もし、無期雇用のフルタイム社員しか雇っていないなら、何も対応することはありません。
2つ目は、正規雇用と非正規雇用で、賃金や待遇に差をつけているかどうか。基本給、賞与、各種手当、昇給、休日・休暇、教育制度、福利厚生など、あらゆる待遇について確認します。もし、何ひとつとして待遇差はないならば、対応することはありません。
対応が必要なのは、正規雇用と非正規雇用が混ざっている職場で、なおかつ2者で賃金・処遇に差がある場合です。たとえば、正規雇用は賞与があるが、非正規雇用は賞与がないなどが、よくあるケースでしょう。
待遇差を設けている理由を確認する
待遇差があった場合は、「なぜその遇差を設けているのか」、理由を確認します。
たとえば、正規雇用は「住宅手当あり」で、非正規雇用は「住宅手当なし」の待遇差があった場合、「正規雇用は高頻度で転勤があるため住宅手当を設けている。非正規雇用は転勤がないため、住宅手当がない」などの理由が考えられます。
特段理由はないものの、これまでの流れでそうなっている場合は、「慣行で」が理由でもこの時点ではOKです。
待遇差の理由について「合理性」があるか確認する
手順3で整理した待遇差の理由について、合理性があるかどうかを確認します。
抽象的だったり主観的な理由では合理性があるとは言えません。先述の「慣行でそうなっている」も合理性がありません。逆に、「正規は転勤の可能性が高いため住宅手当を支給している」は合理性があるのでOKです。
すべての待遇差に合理的な理由があるならば、それぞれの理由を書面で残しておきましょう。それで対応すべきことは終わりです。逆に一部でも合理的な理由のない待遇差があるならば、制度の改善が必要です。
待遇差の理由に「合理性」がない場合は該当制度の見直しを
不合理な理由での待遇差がある場合は、待遇差を解消する取り組みが必要です。
たとえば、特段の理由もなく正規には交通費が全額支給され、非正規には支給されていない場合などは、非正規にも交通費を支給するなどの見直しが求められます。
待遇差を解消する場合、(1)正規雇用の待遇を下げて同等にするか、(2)非正規雇用の待遇を上げて同等にするか2パターンありますが、法改正の趣旨をふまえると、(2)非正規雇用の待遇改善の方向で検討するべきです。厚生労働省が示した指針でも、正規雇用の待遇を下げて同水準にすることは「望ましくない」との見解が示されました。
待遇差をなくすために賃金を見直したり、待遇に変更を加える場合、就業規則の見直しなども発生します。そのため、後回しにするのではなく、早めに取り組んでおく必要がありそうです。
【参考】厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」
厚生労働省のガイドラインより、OK例・NG例
この法改正の対応を進めるにあたり、一番悩む点は待遇差の理由が「合理的か否か」の判断ではないでしょうか。
単に「短時間勤務だから」「派遣社員だから」「将来への期待度が違うから」「これまでの慣行で」などの主観的・抽象的な理由だと十分ではありません。逆に、「責任の程度が異なる」「配置転換や転勤がある」であれば合理性があるとされています。
以下、合理的か否かの判断をするうえでのOK例・NG例を、厚生労働省のガイドラインをもとにご紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
基本給
NG例
基本給について、労働者の能力又は経験に応じて支給しているA社に おいて、通常の労働者であるXが有期雇用労働者であるYに比べて多く の経験を有することを理由として、Xに対しYよりも基本給を高く支給しているが、Xのこれまでの経験はXの現在の業務に関連性を持たない。
OK例
A社においては、同一の職場で同一の業務に従事している有期雇用 労働者であるXとYのうち、能力又は経験が一定の水準を満たしたY を定期的に職務の内容及び勤務地に変更がある通常の労働者として 登用し、その後、職務の内容や勤務地に変更があることを理由に、X に比べ基本給を高く支給している。
賞与
NG例
賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給している A社において、通常の労働者であるXと同一の会社の業績等への貢献が ある有期雇用労働者であるYに対し、Xと同一の賞与を支給していない。
OK例
A社においては、通常の労働者であるXは、生産効率及び品質の目標 値に対する責任を負っており、当該目標値を達成していない場合、待遇上の不利益を課されている。その一方で、通常の労働者であるYや、有期雇用労働者であるZは、生産効率及び品質の目標値に対する責任を負 っておらず、当該目標値を達成していない場合にも、待遇上の不利益を 課されていない。A社は、Xに対しては、賞与を支給しているが、Yや Zに対しては、待遇上の不利益を課していないこととの見合いの範囲内 で、賞与を支給していない。
各種手当
NG例
A社においては、特に理由もなく、通常の労働者であるXには、有期雇用労働者である Yに比べ、食事手当を高く支給している。
OK例
A社においては、その労働時間の途中に昼食のための休憩時間がある通常の労働者であるXに支給している食事手当を、その労働時間の途中に昼食のための休憩時間がない(例えば、午後2時から午後5時までの 勤務)短時間労働者であるYには支給していない。
そのほかOK・NG例については、以下のリンクからより詳しい内容を確認することができるので、ぜひ参考にしてみてください。
派遣労働者を雇用している場合の対応
派遣社員の場合は、派遣会社に雇用されて派遣先で働くという形態なので少し話が複雑です。基本的な考え方としては、「派遣先」で同じ仕事をしている正規社員と、同じ待遇にすることが派遣元に求められます。基本給も賞与も、そのほか、例外なくあらゆる待遇についてです。これが原則です。
ただし、期間の長短はあれ、派遣期間が終わると、次の派遣先に行くというケースが大半。派遣先が変わるたびに、賃金が上下することが所得の不安定につながるとの懸念もあります。そのため、以下の内容を盛り込んだ労使協定を締結すれば、必ずしも派遣先の待遇に合わせなくてもよいとの着地になりました。
【労使協定に盛り込む内容】
ポイントは、②の「賃金の決定方式」にある、同種の業務に従事する一般労働者(正規雇用社員を想定)の平均的な賃金と同等以上の部分でしょう。就業場所と業務内容を鑑み、平均的な賃金の額と同等以上にすればOKとの内容になっています。平均的な賃金の額については、毎年6~7月に通知で示す予定とのことですが、どんな額になるのかが気になるところです。
このように、派遣労働者の場合は、
(1)『派遣先と同じ待遇にする(派遣先均等・均衡方式)』
(2)『派遣元が上記の労使協定を締結する(労使協定方式)』
上記2つから選択できます。
おそらく(1)の対応は困難なので、大半の派遣元が(2)の労使協定方式を採用することになりそうです。
【参考】厚生労働省「平成30年 労働者派遣法 改正の概要 <同一労働同一賃金>」
同一労働同一賃金はいつからスタート?
大企業は2020年4月1日、中小企業は2021年4月1日からの施行。このタイミングで、「すでに」同一労働同一賃金の状態になっている必要があります。つまり、上記のタイミングに合わせて不合理な待遇差の解消をしておく必要があるということです。
違反した場合の罰則は?
罰則は設けられていません。
ただし、違法な状態で事業を継続すると、最悪の場合、労働者から訴えられる可能性があります。違法性が裁判で認められると、差分の賃金や手当を払わなければならないこともあります。実際に以下のような裁判が過去発生し、企業側に差額の支払いが命じられています。
【裁判例】
ハマキョウレックス事件→正社員と契約社員の待遇格差が、労働契約法に違反するとの判決
まとめ
以上が、2020年4月から段階的に始まる「同一労働同一賃金」について、企業が対応すべきことでした。まずは、手順にある通り、現状の確認をするところからスタート。現状のままで違法性があるのか、ないのかをしっかり確認した上で、必要に応じて対策を立てましょう。
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。