2023年1月18日に開かれた「労働政策審議会障害者雇用分科会」より、2026年までに障害者法定雇用率の段階的な引き上げが発表されました。
2023年時点では43.5人未満では雇用義務なしですが、2024年には40人以上の会社に、2026年7月には37.5人以上の会社に障害者雇用義務が生じるケースがあるため注意が必要です。
また企業の規模により、障害者の雇用義務だけでなく、雇用する人数によって納付金の支払いや給付金の支給があります。
本記事では、複雑な国の制度をわかりやすくお伝えするために
- 2026年度までの障害者法定雇用率
- 対象となる企業の基準
- 納付金および給付金(計算方法)
- 予定されている助成金
について、図解や表を使って「計算方法」等を詳しく解説いたします。
障害者雇用報告書が届く前に当記事に目を通していただき、円滑な準備をすすめましょう。
【障害者法定雇用率】2023年度から障害者雇用率は2.7%に?
労働政策審議会障害者雇用分科会の資料によると、民間企業の障害者法定雇用率は『2023年度から障害者雇用率は2.7%』と発表されています。
ただし、雇用する側の企業が円滑に対応できるように、2023年度(令和5年)では現状の2.3%で据え置きとなっています。
2026年までの具体的なスケジュール
2024年度以降の障害者法定雇用率は、以下のように段階的に引き上げられます。
年度 | 障害者法定雇用率 |
2023年 | 2.3% |
2024年〜2025年 | 2.5% |
2026年 | 2.7% |
厚生労働省が発表した当初の案では、2024年4月より2.5%、2026年4月から2.7%となっていました。
しかし、受け入れる企業側の準備期間を確保するために、当初の案より3ヶ月先送りされ、2026年7月より開始されることになりました。
厚生労働省が発表した当初の予定 | 変更後 |
2026年4月から 障害者法定雇用率2.7%に |
企業の準備期間を確保するため 2026年7月より2.7%に |
国や地方公共団体など公的機関の場合
公的機関の障害者法定雇用率については、以下のようになります。
国及び地方公共団体 | 教育委員会 | |
2023年 | 2.6% | 2.5% |
2026年度 | 3% | 2.9% |
労働政策審議会障害者雇用分科会資料
【障害者法定雇用率】対象となる企業の基準は常時雇用者の人数による
障害者法定雇用率の引き上げにより、対象となる企業では障害者の雇用人数が変わります。
常時雇用労働者の人数により、基準が変わるので注意しましょう。
常時雇用労働者とは?
正社員やパート・アルバイトなどの雇用契約の形式に関係なく、以下の条件を満たす労働者は”常時雇用労働者”となります。
- 1週間のうち所定労働時間が20時間以上
- 1年を超えて雇用される者(見込みを含む)
なお、週20時間以上30時間未満の短時間労働者については”0.5人”として計算されます。
特殊なケースの例
休職中の従業員
契約が継続しているなら常時雇用労働者
海外の支店・支社の従業員
日本での雇用契約がある場合は常時雇用労働者
派遣社員
以下の条件を満たす場合は、常時雇用労働者となります。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 雇用期間が年間328日以上
- 雇用契約期間中に離職もしくは解雇がない
- 契約の終了から次の契約までの期間が3日以下
2026年では常時雇用労働者数37.5人以上の企業が対象に
2023年時点では、常時雇用労働者数43.5人に対して障害者を1人以上、雇用する義務があります。
2024年度以降では、以下のように引き上げられる予定です。
2024年4月より
40人以上の常時雇用労働者数に対して障害者を1人以上雇用
2026年7月より
37.5人の常時雇用労働者数に対して障害者を1人以上雇用
障害者法定雇用率とあわせて表にすると、以下のようになります。
2023年 (現在) |
2024年 4月より |
2026年 7月より |
|
義務が発生する従業員数 | 43.5人以上 | 40人以上 | 37.5人以上 |
障害者法定雇用率 | 2.3% | 2.5% | 2.7% |
※1人未満の端数は切り捨て
各年度の障害者法定雇用率シミュレーション
2023年 (現在) |
2024年 4月より |
2026年 7月より |
|
義務が発生する従業員 | 43.5人以上 | 40人以上 | 37.5人以上 |
※〜100人 | 1〜2人 | 1〜2人 | 1〜2人 |
100〜300人 | 2〜6人 | 2〜7人 | 2〜8人 |
300〜500人 | 6〜11人 | 7〜12人 | 8〜13人 |
500〜700人 | 11〜16人 | 12〜18人 | 13〜19人 | 700人〜1000人 | 16〜23人 | 18〜25人 | 19〜27人 |
※義務が発生する従業員数:2023年(現在)は43.5人、2026年度では37.5人
【計算方法】障害者雇用にかかわる「納付金50,000円」と「給付金3種類」
障害者法定雇用率が未達成の場合は納付金、いっぽう達成している場合は、給付金が支給されます。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
納付および支給までのイメージは、以下のようになります。
いずれも、期間は年度ごと(4月1日~翌年3月31日の12ヵ月)に、各月の総数(※)を基準に計算します。
年間とおして2人の障害者を雇用していた場合:
2人×12か月=24→各月の総数
障害者雇用率未達成の場合1人あたり月額50,000円の納付金(計算方法)
障害者法定雇用率が未達成の場合は”障害者雇用納付金”として、不足している障害者数1人あたり月額50,000円を納付する必要があります。
対象は、常時雇用労働者100人越えの企業です。
※100人以下の企業からは徴収なし
年度を基準に計算すると、以下のようになります。
【計算方法】
例:常時雇用労働者101人・障害者の雇用義務2人の企業が、障害者を1人雇用している場合
障害者雇用により支給される3種類の給付金(計算方法)
障害者雇用により支給される給付金は、以下の3種類となります。
①障害者雇用調整金 | ②特例給付金 | ③報奨金 | |
対象は常時雇用労働者の人数で変わる | 100人超え | 100人超え or 以下どちらも申請可能 | 100人以下 |
① 障害者雇用調整金
障害者雇用調整金として、超過雇用している障害者1人につき月額27,000円が支給されます。
対象は、常時雇用労働者100人越えの企業です。
年度を基準に計算すると、以下のようになります。
【計算方法】
例:常時雇用労働者101人・障害者の雇用義務2人の企業が障害者を3人雇用している場合
② 特例給付金
特定短時間障害者(※)の障害者1人につき、特例給付金が支給されます。
※週の所定労働時間が10時間以上20時間未満
常時雇用労働者100人越え or 以下どちらも対象です。
支給額は、常時雇用労働者の人数により変わります。
100人以下:月額5,000円
また、雇用時間および雇用している障害者の人数により、支給額に上限が設定されています。
年度を基準に計算すると、以下のようになります。
【計算方法】
例:常時雇用労働者100人以下・所定労働時間20時間以上の障害者を4人・特定短時間勤務の障害者を3人雇用している場合
【計算方法】
例:常時雇用労働者100人以下・所定労働時間20時間以上の障害者を4人・特定短時間障害者を5人雇用している場合の計算方法
※支給額は上限の『48』で計算される
③ 報奨金
報奨金は、障害者法定雇用率を上回っているときに支給されます。
対象は、常時雇用労働者100人以下の企業です。
以下の計算により、支給額が決まります。
A→『常時雇用労働者数4%の各月の総数』または『72人』のいずれか多い数
B→常時障害者数の各月の総数
年度を基準に計算すると、以下のようになります。
【計算方法】
例:常時雇用労働者100人・常時雇用障害者10人の場合の計算方法
※短時間雇用労働者は1人につき『0.5人』で計算
まとめると以下のようになります。
2024年4月以降は障害者の雇用により助成金を給付予定
2024年4月からは『雇入れに必要な一連の雇用管理に対する相談援助の助成金が創設される予定』といった内容が厚生労働省の資料で紹介されていました。
また、短時間(週10~20時間)で働く重度の身体障害者・知的障害者や精神障害者の雇用により、実雇用率への算定が可能とされています。
障害者雇用の課題3つ
障害者雇用には、3つの課題があげられます。
- 達成するまでの期間
- 選考基準
- 業務に対する適性の判断
1. 達成するまでの期間
企業の規模による採用人数を把握したうえで、達成するまでの期間を逆算する必要があります。
理由としては、障害者の採用人数が多い場合、適切な対応ができない可能性があるためです。
一定の期間でまとめて募集、もしくは長期的に計画して募集するなど、柔軟な対応が企業には求められるでしょう。
2. 選考までの準備
障害者の採用を円滑に行うためには、障害の特性に合わせた対応が企業側に求められます。選考担当者は、あらかじめ障害の状態を把握しておく必要があるでしょう。
3. 業務に対する適性の判断
かりに採用しても、障害によっては業務内容に対応できない可能性があります。あらかじめ障害の特性を理解したうえで、適切な業務内容を検討しておきましょう。
対応がむずかしいと思ったらハローワークや社労士へ相談を
障害者法定雇用率については、内容が複雑な国の制度であり今後も定期的に改正されるため、企業だけでは対応がむずかしいといえるでしょう。
思わぬ形での雇用義務の発生や支払いなどの対応に追われる前に、最寄りのハローワークや顧問社労士へ相談するのがおすすめです。弊社へもぜひ「ご相談」ください。