2024年1月から、両立支援等助成金の中に、育児休業を取る従業員の業務を代替するための体制整備を行った企業を支援する『育休中等業務代替支援コース』が新設されました。
この新設により、両立支援等助成金は次の5つのコースを持つ制度となりました。
- 育休中等業務代替支援コース
- 出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)
- 介護離職防止支援コース
- 育児休業等支援コース
- 不妊治療両立支援コース
この記事では、新設された『育休中等業務代替支援コース』の詳細や、旧制度との変更点、具体的な支給要件や支給額、申請時の注意点などについて解説します。
育休中等業務代替支援コースとは?
2024年1月から、両立支援等助成金の中に、育児休業を取る従業員の業務を代替するための体制整備を行った企業を支援する『育休中等業務代替支援コース』が新設されました。
この新設により、両立支援等助成金は次の5つのコースを持つ制度となりました。
- 育休中等業務代替支援コース
- 出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)
- 介護離職防止支援コース
- 育児休業等支援コース
- 不妊治療両立支援コース
『育休中等業務代替支援コース』は、育児と仕事の両立支援を一層強化する目的で新設されたコースです。
育児休業を取得する従業員の業務を代替する人材を雇用しやすくしたり、既存の従業員に手当を支給することで、業務代替者にインセンティブを与え、従業員の育児休業取得を促進することを目的としています。
旧助成金制度からの変更点
旧助成金制度では、育児休業取得に際しての直接的な業務代替支援が限定的でした。
例えば、「業務代替支援 A新規雇用」という制度の助成金は、育児休業を取得する従業員の代わりに、新規に雇用される人材に対して支給されるという内容のものです。
この旧制度の適用範囲は、特定の条件を満たす新規雇用に限られます。
つまり、「育児休業中の従業員を代替する目的で、新たに雇用される人の給与の一部を補助すること」に特化している制度なのです。
育児休業以外の理由での新規雇用や、既存従業員の業務調整などは対象外でした。
一方で、今回新規に設置された『育休中等業務代替支援コース』では、「業務代替に必要な人材の確保」や、「人材確保のための費用の支援」に重点を置いています。
そのため、『育休中等業務代替支援コース』の新設により、企業が育児休業取得を支援しやすくなり、従業員も休業を取りやすくなることが期待されています。
育休中等業務代替支援コースの支給額
新設された『育休中等業務代替支援コース』では、「育児休業を取得中の従業員の業務を代替するために新規に人材を雇用する場合」や、「育児短時間勤務を利用している従業員の業務を代替する場合」などに、事業主へ助成金が支給されます。
支給額は、代替人材の雇用条件、業務内容、および勤務形態に基づいて決定されます。
具体的には次の3つの場合で支給される助成金額が異なるので、どれに該当するのかを、事前に確認しておきましょう。
- 育児休業中の場合
- 育児短時間勤務中の場合
- 育児休業中の新規雇用の場合
それぞれの場合の支給額について、詳しく解説します。
育児休業中の場合
育児休業取得者の業務を他の従業員が引き継ぐ際、支払われた手当に応じて助成金が提供されます。
この場合、最高125万円までの助成が可能です。
具体的には、業務体制整備経費として最大5万円(1か月未満は2万円)、業務代替手当として支給額の3/4の支援が受けられます。
つまり、業務代替従業員が増えるごとに以下のような助成額が得られるということです。
- 基本的に業務代替者が2人、3人、4人、5人、と増えるごとに、人数分の業務体制整備経費(5万円、または育休1か月未満で2万円)に加え、業務代替手当支給額の3/4を助成金として申請可能
- 対象育休取得者が有期雇用である場合、さらに10万円が加算
- 月額上限は全業務代替者に対する手当支給総額を基に算出され、1カ月につき最大10万円が上限
この場合、助成金の要件として、業務の効率化、手当制度の規定、最低7日以上の育児休業の取得、手当による賃金増額、及び休業後の原職復帰と継続雇用が含まれます。
育児短時間勤務中の場合
育児短時間勤務を実施する従業員の業務を他の従業員が引き継ぐ場合、最大110万円が助成されます。
具体的には、業務体制整備経費として2万円、業務代替手当として支給額の3/4の支援が受けられ、上限は月3万円です。
子どもが3歳になるまでの期間が対象となります。
つまり、業務代替従業員が増えるごとに以下のような助成額が得られるということです。
- 業務代替者が2人、3人、4人、5人…と増えるごとに、人数分の業務体制整備経費2万円に加えて、支払った業務代替手当の3/4を各代替者ごとに申請可能
- 月額上限は3万円かつ、子どもが3歳になるまで
- 注意点は、代替者が増えるごとに手当支給総額は増加するものの、月額上限は各代替者に対して3万円を超えないよう調整しなければならないこと
- 有期雇用の育休取得者(育休期間1ヶ月以上)には更に10万円が加算
この場合、助成金の要件として、業務の見直しと効率化、手当制度の規定、最低1か月の短時間勤務利用、及び手当による賃金増額が含まれます。
育児休業中の新規雇用の場合
育児休業中の業務を、新規雇用または新規派遣受入れによって代替する場合、最大67万5,000円が助成されます。
他の従業員が引き継ぐ場合とは違い、代替期間に応じて、最短7日以上で9万円から、最長6か月以上で67万5,000円まで段階的に支給されます。
つまり、業務代替従業員が増えるごとに以下のような助成額が得られるということです。
- 対象者の「育児休業期間の分割取得実態」や「休業前後の休日数」などを加味した業務代替期間の計算方法があり、育児休業を取得する全ての従業員に対して一度だけ支給
- 有期雇用の従業員には更に10万円が加算
- 同一の育児休業に対しては、他の手当との併給申請は不可
- プラチナくるみん認定企業は通常より助成額が高額となる
この場合、助成金の要件として、新規雇用の実施、最低7日の育児休業取得、及び休業後の原職復帰と継続雇用が含まれます。
育休中等業務代替支援コースの加算措置を受けられる条件
新設された『育休中等業務代替支援コース』には、ある条件を満足した場合に受けられる加算措置が設けられています。
具体的には、次の3つの場合に加算措置を受けることができます。
- 『プラチナくるみん認定事業主』の場合
- 制度利用者が『有期雇用労働者』でもある場合
- 直近年度についての育児休業取得状況情報を『両立支援ひろば』サイト上で公表した場合
それぞれの場合において、どのような加算措置が受けられるのかを詳しく見ていきましょう。
『プラチナくるみん認定事業主』の場合
プラチナくるみんとは、子育て支援において厚生労働大臣から特別に認定される企業のことです。
この認定を受けた事業主が、育児休業中等業務代替支援コースの助成金を申請すると、業務代替手当が4/5分加算されます。
さらに、育児休業中の方の代替となる新規雇用に対し、代替期間に応じ支給額が増額され、最高82.5万円までの助成が受けられるようになります。
制度利用者が『有期雇用労働者』でもある場合
育児休業または育児短時間勤務を利用する従業員が「有期雇用労働者」である場合は、追加で10万円分の加算が受けられます。
直近年度についての育児休業取得状況情報を『両立支援ひろば』サイト上で公表した場合
厚生労働省が運営する『両立支援のひろば』のウェブサイト上で、企業が自らの育児休業取得の実績などを公開した場合、追加で2万円の加算が受けられます。
育休中等業務代替支援コース申請時の注意点
『育休中等業務代替支援コース』を申請するにあたり、対象者の育児休業の時期によっては「旧制度に申請しなければならない」ことがあるので注意しましょう。
具体的には次のように、育児休業開始日が令和5年内か令和6年1月からか、によって申請先が異なります。
令和5年12月31日までに始まる育児休業(産休から続く育休や産後休業を含む)の場合 | 「業務代替支援A 新規雇用」助成金への申請 |
令和6年1月1日以後に開始する育児休業 | 『育休中等業務代替支援コース』への申請 |
両立支援等助成金リニューアルされた背景とは
両立支援等助成金は、社会の変化とともに変化する働き方に合わせて、次のように制度変更が度々行われてきました。
2020年度 | 出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)、介護離職防止支援コース、育児休業等支援コース、女性活躍加速化コースの支給要件の緩和 |
2021年度 | 育児休業等支援コースに「新型コロナウイルス感染症対応特例」を創設等 |
2022年度 | 男性育休取得率の向上、育休中の業務代替労働者の確保をサポートする内容の追加等 |
2023年度 | 『育休中等業務代替支援コース』の追加等 |
今回の『育休中等業務代替支援コース』の追加は、育児休業取得後の従業員のスムーズな職場復帰を促進し、企業の人材不足を解消する観点から行われたものです。
今後も年々働き方は変わっていくと考えられます。
働き方の変化に伴い、従業員の育児と仕事の両立を支援していくために、両立支援等助成金の内容変更は今後も続くことでしょう。
育休中等業務代替支援コースを活用し、より働きやすい職場を目指そう
本記事では、2024年1月から新設された『育休中等業務代替支援コース』について解説しました。
『育休中等業務代替支援コース』は、育児休業取得者の業務をスムーズに代替するための人材確保や費用支援に焦点を当て、育児と仕事の両立を促進するための新しい枠組みです。
また、旧制度と比較すると、今回のコース追加により、企業と従業員、どちらにもメリットがある形で、安心して育児休業を取得できる環境が整うようになり、ワークライフバランスの向上が期待されます。
要件に該当するようであれば、本コースを積極的に活用し従業員が安心して育児休業を取得できる環境作りを目指しましょう。