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長野や和歌山の“旅先”で働く!? 「ワーケーション」導入を検討する企業が押さえておきたい、8つのポイント

投稿日:2020年7月13日

「三密」を回避しながら、経済活動を再開する。この難易度の高い課題に、全世界が取り組む今、働き方の見直しが、これまでになかったスピードで進んでいます。新型コロナに起因する働き方のもっとも大きな変化が、なかば強制的に進んだ「テレワーク(リモートワーク)」でしょう。そして今、テレワークの新たな展開として、「ワーケーション」への関心が高まりつつあります。本記事では、ワーケーションの導入を検討する企業向けに、ワーケーション導入前に押さえておきたいポイントについて紹介します。

「ワーケーション」とは?

ワーケーションは、ワーク(仕事)とバケーション(休暇)をかけあわせた造語で、旅先で仕事をすることをいいます。給料の発生しない「就業時間外」に休暇先でタダ働きをすることではなく、給料の発生する「就業時間内」に休暇先で仕事を行うことです。

ここでポイントとなるのが、「働く場所」です。ビフォーコロナのスタンダードは、「オフィスや工場、店舗」など、社員が同じ場所に集まって就業するスタイルでした。それが、ウィズコロナ時代の到来とともに、「オフィスに通えない」という制約が生まれたため、「自宅」での就業が一般化しました。これを拡張して、「旅先を仕事場にしてしまおう!」というのが、ワーケーションの考え方です。

ただし、ワーケーションはコロナ時代の到来とともに生まれた言葉ではありません。もともと2000年代にアメリカで広まったといわれています。それを日本に持ち込んだのは、JAL(日本航空)です。同社は、2017年に働き方改革の一環として、ワーケーション制度を社内に試験的に導入しました。これが注目され、ワーケーションという言葉が日本でも知られるようになりました。しかし、この取り組みが他の企業にも伝播したかというと、そうでもありません。これまで、ワーケーションを取り入れる企業は、ごくごく一部に限られてきました。

今、「ワーケーション」が注目される理由

こうした中、このワーケーションが、今、注目を集めつつあります。大きな理由は2つあります。1つ目は、新型コロナによる強制テレワーク化で、導入ハードルが格段に下がったこと。2つ目は、インバウンドの壊滅的な減少から、地方の観光地を救う手だてとして、国・地方自治体・観光関連企業が、ワーケーションを盛り上げようと動いているからです。そう、「GoToキャンペーン」ですね。

実際に、環境省は全国にある国立公園などでワーケーションができるように環境整備を行うと発表しました(参考)。また、和歌山や長野、北海道といったさまざまな自治体が、ワーケーション需要を取り込もうとしています(参考)。加えて、移動を担う航空会社、鉄道会社も連携し、さまざまなキャンペーンが実施される予定です(参考)。

つまり、企業側からみた観点と、受け入れ先(リゾート地)からみた観点、この2つの側面からワーケーションの導入機運が高まっています。さらにもうひとつ加えるなら、働く人の意識の変化でしょう。ビフォーコロナ時代においては、固定的な時間・場所で働くことが当たり前でした。しかし、ウィズコロナ下において、「場所」のしばりがとっぱらわれ、「どこででも働ける」という確信や自信を得た人が増えたように思います。

とはいえ、ワーケーションは今のところ、誰しもが実践できるものではありません。現状だと、雇用されていない経営者や事業主、あるいは先進的な働き方をよしとする企業で勤めるごく少数の人たちだけに限られています。なぜなら、ほとんどの企業が、セキュリティなどの観点から「自宅」でのテレワークは認めていても、「自宅外や旅先」でのテレワークは認めていないからです。

そんな中で、ワーケーションを制度化しようとする企業も、少しではあるものの生まれ始めています。企業がワーケーションを制度化する場合、どういう点に気をつけるべきなのか――。導入に向けた検討ポイントについて、8つに分けて紹介します。

ワーケーションを制度化する場合の検討ポイント

(1)「働く場所」は、どこまでOKとするか?

ワーケーションを導入するにあたって、まず検討すべきなのが、どこまでを働く場所として認めるかという問題です。これを検討する際、念頭に置くべきなのが、セキュリティ・情報漏洩リスク、貸し出し用の物品破損リスクなどです。たとえば極端な例だと、ビーチでもOKなのか、山の頂上でもOKなのか。あるいは、それだと破損や漏洩リスクがあるので、宿泊先の部屋の中だけOKとするのか、会社が契約している保養所内のみとするのか。あらかじめ、線引きをしておく必要があります。

働く場所をどこまで認めるか(例)

  • ✓ 電話などで連絡がとれる場所であれば、どこでもOK
  • ✓ ネットに接続できる場所であれば、どこでもOK
  • ✓ 自社が保有・契約する保養所やコワーキングスペース内のみ
  • ✓ 国内のみ(海外は応相談) など

あるいは、業務の種類によって情報漏洩リスクはまったく異なるので、リスクの度合いに合わせて、場所の範囲を変えるのもひとつの手です。

レベル分の例

  • レベル1: 機密情報を扱う場合(漏洩厳禁の個人情報など)→場所:自社内のみ
  • レベル2: 社内限の情報を扱う場合(売上高など)→場所:自社内か自宅、コワーキングスペースなど
  • レベル3: 社内限の情報を扱わない場合→場所:ネットに接続できる場所であればどこでも可

「レベル1」の個人の職務経歴書や健康情報、他社の信用情報といった機密情報を扱う場合は、残念ながら社内のみでの勤務が望ましいです。漏洩することで、企業の信頼が著しく損なわれるからです。一方、「レベル2」の日次売上額や日報程度であれば、漏洩したとしても社内にしか害は及びません。であれば、自宅や実家、コワ―キングスペース、あるいは旅先などへと、働く場所を広げてもよいと思います。

中でも、ワーケーションに一番向いているのは、通常業務ではなく、アイデアを発散させるような仕事です。新しい取り組みの企画を練ったり、新規事業の計画を練ったり…。こうした企画色の強いものは、いつもと違う環境が有効に働くでしょう。大自然の中を歩きながら考えると、もしかしたら神インスピレーションが舞い降りてくるかもしれません。また、研修にリゾート地を利用する企業も多いようです。

(2)ワーケーションの「上限日数」を決めるか?

次の検討ポイントは、ワーケーションの取得日数に上限を設けるかです。アフターコロナは、「フルリモートを基本にする」と決断するのであれば、「上限なし」でもうまく機能する可能性はあります。しかし、「やはり対面で働く時間も大事だ」ということであれば、何らかの上限を設けておく必要があります。たとえば、「月間10日までOK」「年間20日までOK」などです。有休取得促進施策のひとつとしてワーケーションを使うなら、年間単位で日数を決めるほうが使い勝手がいいですね。「半日単位」や「時間単位」で取得できるような制度設計にしておくと、社員にも喜ばれると思います。

ちなみにJALの場合は、パイロットや客室乗務員を除き、7~8月の2カ月のうち最大5日間を、ワーケーションとして認めているのだそうです。

(3)ワーケーションの「対象者」を絞るか?

次のポイントは制度の対象者です。JALの例のようにパイロットや客室乗務員、あるいは医療従事者や料理人など、「特定の場」でしか仕事が成り立たない職種もあるので、必ずしもすべての社員を対象にすることはできません。ですから、「対象となる職種」を決め、あらかじめ合意を得ておくほうが無難です。

加えて、勤続年数条件を設けるかどうかも検討しておきたいポイントです。コロナ下においては、「4月入社の新卒社員を、入社日からからフルリモートで勤務させた」という話もありましたが、それが適切かどうかは別の議論。現実的で分かりやすいラインを引くなら、自律的に動ける「勤続1年後」「試用期間6カ月終了後」などだと思います。

対象者を絞る際に注意しておきたいことが、「同一労働同一賃金の原則」です。非正規・正規間での待遇差はなくさないといけないので、ワーケーションを「正社員だけの特典」にすることはできません。

(4)「時間管理」はどうするか?

時間管理については在宅ワークと考え方は同じで、リモートであっても出退勤管理を行って労働時間を把握しなければなりません。やり方は電話やメールでの連絡、あるいはSlackなどの業務ツール、勤怠管理ツールなどを通じて報告してもらい、労働時間をカウントします。

(5)「費用負担」はどうするか?

基本的には在宅ワークと同様で、「会社負担分」と「個人負担分」をどう分けるかを考えます。個人旅行中に仕事を行うスタイルのワーケーションなら、旅費・宿泊費を会社が負担する必要はありませんが、通信費や事務用品費は会社負担とするか、あるいは個人負担にするか決めておきます。一方で、会社の業務命令のもと実施されるワーケーションについては、当然ながら移動・宿泊・通信費などすべてを会社負担とすべきです。

(6)「服務規程」を定めるか?

細かいルールをつくりすぎると窮屈になりますが、最低ラインの守るべき事項は定めておくほうがベターです。「貸し出したパソコンやスマートフォンを私的利用しない」「紛失・破損した場合は、相当額を弁償する」「コピー機を使った場合は、第三者が閲覧しないよう細心の注意を払う」「業務時間中は、業務に専念する」などです。とくにワーケーションの場合、子連れで旅先に行くことも多いはず。「子守りをしながら」の業務を認めるかどうかも、あらかじめ決めておきたい事項です。

(7)「就業規則」はどうするか?

コロナ禍の強制テレワークにおいては、就業規則での取り決めナシでGoした企業も多いと聞きますが、緊急対応ではなく常設の制度として運用するのであれば、ルールを明文化しておいたほうが、後々のトラブルを防げます。新たにテレワーク就業規則を作成する場合は、厚生労働省の『テレワーク モデル就業規則』が参考になるのでおすすめです。これをベースに、「旅先での仕事」を想定した内容に書きかえれば、就業規則はスムーズに作成できます。

(8)どこまでが「労災」になるのか?

最後に、検討ポイントではないですが、ワーケーション導入前に理解しておきたい労災の扱いについてご紹介します。

「労働災害保険(労災)」とは、労働者が業務に起因して被る災害(病気や怪我)について補償する制度です。労災保険は、仕事中に起こった災害を補償する「業務災害」と、通勤中に起こった災害を補償する「通勤災害」があります。一方、業務上でもなく通勤上でもない、プライベートでの病気や怪我は「健康保険」が適用されます。

テレワークの場合、どこまでが「労災」で、どこからが「健康保険」なのか、切り分けが少し複雑です。前提として、労災認定のポイントは、「業務遂行性(指揮命令下にあるか)」と「業務起因性(仕事が原因か)」の2点。この2つの判断軸をもとに、両方を満たす場合に労災が認められます。

たとえば、旅先での業務時間中に、別のところにある資料を取りに行こうとして、転倒しケガをした場合には、労災が認められます。指揮命令下にある時間内なので業務遂行性がありますし、資料を取りに行くという行為は、業務起因性があるからです。

一方で、私的旅先での「業務時間外」に起きた事故、たとえば旅先までの移動中に起きた交通事故や宿泊先の食事中に起きた食中毒などは、労災にはなりません。

ただし、ワーケーション自体が、業務命令によって実施される場合は、扱いが異なります。会社が業務命令として行き先を決めて、リゾート地などで仕事をさせる場合、たとえば「離島で指定の研修を受けてきなさい」「山に籠ってアイデアをまとめてきなさい」といった指示のもとに行われるワーケーションは、出張と同じ扱いになります。出張の場合は、よほどの逸脱行為(居酒屋で泥酔して転倒など)でない限り、業務時間外の移動中も含めて、すべての工程で起きた事故が労災の対象となります。

整理すると…

プライベートで行く旅先で仕事をする場合

→在宅ワークと同様、業務時間中に業務起因で起こった災害が労災の対象

会社に指定された旅先で仕事をする場合

→移動・食事・宿泊中を含め、家を出てから帰るまでの災害が労災の対象(一部例外あり)

ワーケーションのある生活

夏は涼しい北海道でワーケーション Aさんの場合

小学生の子どもがいるWEBデザイナーのAさん。1週間の夏季休暇にプラスして、もう1週間を休暇先で働くことに。場所は、夏でも涼しい北海道のニセコ。朝はジョギングをした後、8時から業務開始。場所はホテルに併設されたWi-Fi完備のコワーキングスペース。子どもたちは一緒に遊びに来ている祖父母に任せて仕事に集中。午後の17時にはきっちり仕事を切り上げて、残りの時間はみんなで周辺散策へ。夕飯にはおいしいご当地郷土料理を食べて、家族も大喜び!

海辺リゾート、和歌山・白浜でワーケーション Bさんの場合

マリンスポーツが大好きなマーケッターのBさん。会社がコロナを契機にオフィスを解約し、フルリモート体制になったことから、夏の間は和歌山の白浜で過ごすことに。コアタイムが12時~15時のフレックスタイム制なので、早朝6時から15時までを勤務時間に。就業場所は、空き家を改装したホテルの一室。業務終了後の15時以降は地元の人たちとも積極的に交流し、たくさんの気づきを得ることができたので、「ここに来てよかった…」と改めて実感。

まとめ

妄想はさておき、ワーケーション導入のイメージはついたでしょうか。8月から「GoToキャンペーン」がスタートする予定です。コロナの収束が見えない中ですが、格安で旅ができるチャンス。せっかく行くなら、「長期でゆっくりと」は、旅好きなら誰もが望むこと。社員のモチベーションアップ、あるいは企業ブランディングの一環として、ワーケーションを制度として取り入れてみてはどうでしょうか。

ちなみに、このサイト(働き方テラス)を運営する株式会社セルズの加藤代表は、昨年、河口湖で1週間ワーケーションを実践されたそうです。家族にも好評だったとのことで、社内制度としてワーケーションの導入を検討中だとか。実際にどんな制度にされたのか、もし知りたい方がいらっしゃれば記事化も検討したいと思います!

ライター:林 和歌子
大学卒業後、人材サービス大手で約12年間勤務。主に企業の採用活動に携わる。採用という入口だけではなく、その後の働き方にも領域を広げたいとの思いで独立。現在、採用支援を手がける傍ら、働き方に関するコンテンツなども執筆しています。京都大学文学部卒業(社会学専攻)。2015年、社会保険労務士の資格取得。

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